高架水槽とは、建物の屋上など高い所に水をため、高さの差を使って各階の蛇口へ水を送る水槽です。
高架水槽の清掃と点検は建物の区分に応じて法律や条例で決まっています。この記事では、高架水槽の仕組みと受水槽との違い、どの法律で何回の清掃・点検が要るか、清掃の手順、法定検査で指摘の多い場所、交換の目安と耐震の基準、直結給水に切り替えて撤去するかの判断、災害時の扱いまでを、国と自治体の一次資料をもとに整理します。水道法の区分の詳しい判定は水道法の記事で扱っています。
この記事でわかること
- 高架水槽と高置水槽は同じ設備:国の集計や告示は「高置水槽」、辞書は「高架水槽」と書きます。受水槽からポンプでくみ上げた水をためる屋上の水槽です。
- 清掃の義務は建物の区分で決まる:受水槽の有効容量が10m³を超える簡易専用水道は水道法施行規則55条で毎年1回以上、特定建築物は建築物衛生法で1年以内ごとに1回の清掃です。10m³以下は自治体の条例や要綱によります。
- 法定検査で多い指摘は通気管とマンホール:国土交通省の令和4年度の集計で、高置水槽の指摘は通気管の状態12.4%、マンホールの状態11.6%でした(分母は指摘を受けた施設)。
- 耐用年数15年は税務の年数:減価償却の年数で、物理的な寿命ではありません。2022年の福島県沖地震の国の調査では、主な被害の筆頭が高置タンクでした。
- 撤去すると災害時の貯水を失う:直結給水は清掃が要らなくなる一方、東京都は「貯留機能がないため断水することがあります」と説明しています。
高架水槽とは|屋上に水をためて、重力で各階へ送る水槽
高架水槽は、受水槽からポンプでくみ上げた水を屋上にため、高さの差を使って各階へ自然に流す水槽です。
ブリタニカ国際大百科事典は「高架水槽」を、重力で建物に給水する目的で高い塔の上に置かれた水槽とし、広い意味では建物の屋上に置く水槽も含むとしています。東京都水道局の説明では、受水槽にためた水をポンプで「屋上の高置水槽へくみ上げ、自然流下により給水する方式」の中で使われます。
高架水槽と高置水槽は同じ設備
高架水槽と高置水槽は同じ屋上の水槽を指す呼び方で、国の集計や告示は「高置水槽」と書いています。
国土交通省の簡易専用水道の検査の集計は「高置水槽本体の状態」「高置水槽内部の状態」という項目名を使い、建築物衛生法の告示119号も「高置水槽」です。東京都・横浜市・名古屋市の水道局も「高置水槽」と書き、大阪市は同じサイトの中で「高架水槽」と「高置水槽」の両方を使っています。一方、辞書の項目は「高架水槽」です。建築基準法の告示は「給水タンク」、国の公共建築工事標準仕様書は「高置タンク」と書きます。どちらが正式な名前かを法令で決めた資料は見つかりませんでした。
受水槽との違い
受水槽は水道管から来た水を最初に受けてためる水槽で、高架水槽はその水をポンプで屋上へ上げて受け直す水槽です。
受水槽は地上や地下に置かれ、高架水槽は屋上や塔の上に置かれます。新居浜市の要領は、受水槽と高置水槽をまとめて「貯水槽」と呼んでいます。東京都水道局によると、建物によっては「受水槽もしくは高置水槽の片方だけを設置する場合もあります」。水道法の区分(簡易専用水道に当たるか)は、高架水槽ではなく受水槽の有効容量で決まります。
高架水槽を構成する部品
高架水槽は、本体と点検用のマンホール、通気管、オーバーフロー管、水抜管、水位の警報、揚水管と給水管などでできています。
建築基準法施行令129条の2の4にもとづく告示1597号は、飲料水のタンクの構造を細かく決めています。外部から天井・底・周壁を点検できるように置くこと(いわゆる6面点検)、マンホールは直径60cm以上の円が内接する大きさで、ほこりが入らないように立ち上げること、ほこりなどが入らない構造のオーバーフロー管と通気装置を付けること(通気装置は有効容量2m³未満なら不要)などです。
建設省告示第1597号、厚生労働省告示第119号をもとに作成した模式図。部品の位置は水槽の形と製品で違う
消防用・配水塔の「高架水槽」は別もの
消防用の水を高い所にためる水槽や、水道事業者が配水に使う塔も「高架水槽」と呼ばれますが、この記事では扱いません。
国土交通省の東日本大震災の水道施設の被害資料にある「高架水槽」は、水道事業者の配水施設のことで、建物の屋上のタンクではありません。以下は、建物の飲み水を送る屋上の水槽の話です。
給水方式の中での位置|高置水槽方式と直結給水
高架水槽を使うのは、受水槽とポンプを組み合わせた貯水槽水道方式で、水道管から直接送る直結給水では使いません。
東京都水道局は給水方式を、直結直圧・増圧直結・貯水槽水道の3つに分けて説明しています。
| 方式 | 水の流れ | 高架水槽 | 東京都の説明 | 事故・災害のとき(東京都) |
|---|---|---|---|---|
| 直結直圧 | 配水管の水圧のまま各階へ | 使わない | 配水管の水圧で3階まで | 貯留機能がないため断水することがある |
| 増圧直結 | 給水管に付けた増圧ポンプで水圧を足して各階へ | 使わない | 中高層階まで | 貯留機能がないため断水することがある |
| 貯水槽水道(高置水槽方式) | 受水槽→揚水ポンプ→屋上の高置水槽→自然流下 | 使う | 片方の水槽だけを置く場合もある | 貯水槽内に残っている水は使える |
東京都水道局「給水方式」のページをもとに作成。階数は東京都の説明で、ほかの自治体では違う
東京都水道局「給水方式」、大阪市水道局の案内をもとに作成した模式図。直圧や増圧で届く階数は自治体と配水管の水圧で違う
高置水槽方式は受水槽とポンプがセット
高置水槽方式では、受水槽にためた水を揚水ポンプで屋上へ上げ、高架水槽から重力で各階へ流します。
東京都水道局の説明では、高架水槽から各階へは自然流下で給水します。大阪市水道局は、この方式では停電でポンプが止まると、屋上の高架水槽内の水を使った後は断水になると説明しています。揚水ポンプの点検の頻度や方法は給水ポンプの記事にまとめています。
直結直圧で届く階数は自治体で違う
直結直圧の対象は、東京都と大阪市が3階まで、名古屋市は条件により5階までで、自治体ごとに違います。
同じ自治体の中でも、配水管の水圧で届く高さは場所で変わります。横浜市は、3階建て以上で直結直圧を望むときは事前に給水水圧調査を申し込み、0.25MPa以上の区域かを確かめるとしています。東京都には、増圧直結の対象の建物でも、増圧ポンプの設置スペースを確保したうえで設置を留保し、直圧で給水する特例があります。
増圧直結は中高層まで
増圧直結は水道管に増圧ポンプをつないで水圧を足す方式で、大阪市は階数の制限なしで200戸までを対象にしています。
東京都は増圧直結を「中高層階まで直結給水する方式」と説明しています。名古屋市は直結加圧を条件により10階程度まで、平成26年4月からはポンプを直列に並べる方式で30階程度までとしています。どこまでできるかは水圧と建物の条件で、個別の協議で決まります。横浜市は、増圧ポンプの工事費と維持管理費は設置者の負担としています。
新築の約9割は直結(東京都)
東京都の資料によると、近年の新築建物の9割程度が直結給水を選び、令和4年度末の直結給水率は77%です。
同じ資料によると、貯水槽水道から直結給水への切り替えは令和4年度で年約1,000件ありました。これは東京都の数字で、全国の割合ではありません。
高架水槽の清掃・点検の義務|どの法律がかかるか
高架水槽の清掃と点検の義務は、建物が水道法の簡易専用水道か、建築物衛生法の特定建築物かで決まります。
両方に当たる建物もあり、どちらにも当たらない建物は自治体の条例や要綱の対象です。
| 区分 | 当たる条件 | 清掃 | 検査・点検 | 根拠 |
|---|---|---|---|---|
| 簡易専用水道 | 水道水だけが水源で、受水槽の有効容量の合計が10m³超 | 水槽の掃除を毎年1回以上 | 登録機関などの検査を毎年1回以上 | 水道法3条7項・施行令2条・施行規則55条・56条 |
| 特定建築物 | 事務所・店舗・学校・旅館などの用途で延べ3,000m²以上(専ら学校は8,000m²以上) | 貯水槽の清掃を1年以内ごとに1回 | 遊離残留塩素の検査を7日以内ごとに1回 | 建築物衛生法施行令1条・施行規則4条 |
| 小規模貯水槽水道 | 受水槽の有効容量の合計が10m³以下 | 自治体の条例・要綱による | 自治体による(名古屋市は努力義務) | 東京都・大阪市・横浜市の条例、名古屋市の要綱 |
| 井戸水が混じる建物 | 水源に地下水を含む | 簡易専用水道には当たらない | 専用水道の基準、特定建築物なら地下水の水質検査 | 水道法3条、建築物衛生法施行規則4条1項4号 |
水道法、同法施行令・施行規則、建築物衛生法施行令・施行規則、東京都・大阪市・横浜市・名古屋市の案内をもとに作成。区分の最終判断は所管の保健所や水道局に確かめる
簡易専用水道(10m³超):水道法で年1回の清掃と検査
受水槽の有効容量の合計が10m³を超える簡易専用水道は、水槽の掃除と検査を毎年1回以上行うことが水道法で決まっています。
水道法施行規則55条1号は「水槽の掃除を毎年一回以上定期に行うこと」と定め、対象を受水槽に限っていません。東京都のリーフレットも「受水槽、高置水槽の清掃は、毎年1回以上」と書いています。検査は施行規則56条で毎年1回以上、地方公共団体の機関か「国土交通大臣及び環境大臣の登録を受けた者」が行います。水道行政は2024年4月に厚生労働省から国土交通省・環境省へ移ったため、古い資料の「厚生労働大臣の登録」は今の制度の書き方ではありません。
特定建築物:建築物衛生法で1年以内ごとの清掃
延べ3,000m²以上の事務所や店舗などの特定建築物は、建築物衛生法で貯水槽の清掃を1年以内ごとに1回行います。
建築物衛生法施行規則4条1項7号は「遊離残留塩素の検査及び貯水槽の清掃を、それぞれ七日以内、一年以内ごとに一回」と定めています。義務を負うのは、所有者や占有者など維持管理の権原を持つ人です。特定建築物は全国に48,608か所(令和6年度末、厚生労働省)あります。特定建築物でなくても多数の人が使う建物には、同じ基準に従う努力義務があります(法4条3項)。建築物衛生法は今も厚生労働省の所管です。
特定建築物に病院・工場・マンションは入らない
建築物衛生法施行令1条の用途の列挙に、病院・工場・共同住宅そのものは挙がっていません。
用途は、興行場・百貨店・集会場・図書館・博物館・美術館・遊技場、店舗・事務所、学校(研修所を含む)、旅館です。ただし、建物の中の事務所や店舗の部分の面積で特定建築物に当たることがあるため、最終判断は所管の保健所に確かめます。また、特定建築物に当たらない病院や工場でも、受水槽が10m³を超えれば簡易専用水道として水道法がかかります。
10m³以下は条例と要綱
受水槽の有効容量が10m³以下の小規模貯水槽水道は水道法の義務の外ですが、自治体の条例や要綱で清掃を求められます。
東京都は条例で、学校・病院・社会福祉施設などに給水するものか5m³を超えるものを「特定小規模貯水槽水道等」とし、清掃と検査・点検を1年に1回以上求めています。大阪市は給水条例36条の3で管理と検査を設置者に義務づけ、横浜市は条例で受水槽の清掃を毎年1回以上としています。名古屋市は要綱にもとづく管理を求め、検査は「受けるよう努めてください」です。国土交通省の集計では、全国の小規模貯水槽水道788,542施設のうち、令和4年度に検査を受けた割合は3.5%でした。
井戸水が混じる建物は区分が変わる
井戸水を水源に混ぜる建物は、水道水だけを水源とする簡易専用水道には当たらず、別の区分で判定します。
水道法3条7項は、簡易専用水道を「水道事業の用に供する水道から供給を受ける水のみを水源とするもの」と定めています。地下水を混ぜる建物は、居住者や使う水の量によって専用水道に当たるかを判定します。特定建築物が地下水を水源の全部または一部にするときは、建築物衛生法施行規則4条1項4号により、給水を始める前にすべての項目の水質検査を行い、その後も定期に検査します。検査の項目は水質検査の記事、区分の判定は水道法の記事で説明しています。
高架水槽の清掃|手順と、清掃後に確かめる水質
高架水槽の清掃は受水槽の清掃のあとに行い、洗浄、2回以上の消毒、水張り後の水質確認で終わります。
手順を細かく定めているのは、建築物衛生法にもとづく厚生労働省告示119号の「貯水槽の清掃」です。
受水槽の後に高架水槽を清掃する
告示119号は、受水槽の清掃を行った後に、高置水槽や圧力水槽の清掃を行うと順番を決めています。
清掃では、水槽の中の沈殿物や浮遊物、壁面に付いた物を洗浄などで取り除き、洗浄に使った水を完全に排除して、水槽の周りも清掃します。告示が定めるのは順番で、同じ日に行うことまでは書かれていません。
消毒は2回以上、水張り後に残留塩素などを確かめる
清掃が終わったら塩素剤で2回以上消毒し、水を張ったあと給水栓と水槽の水で残留塩素や色度などを確かめます。
告示119号の基準は、遊離残留塩素0.2mg/L以上(結合残留塩素なら1.5mg/L以上)、色度5度以下、濁度2度以下、臭気と味に異常がないことです。消毒に使った塩素剤は、消毒が終わったら完全に排除します。残留塩素の測り方は残留塩素の記事にまとめています。
汚泥は廃棄物として処理する
清掃で出た汚泥などは、廃棄物処理法や下水道法などの規定にもとづいて処理すると告示119号に書かれています。
業者に頼むときは、汚泥の処理まで作業に含まれるかを見積もりで確かめます。
費用の公的な相場は無い
高架水槽の清掃の費用について、国や自治体が公表している相場は見つかりませんでした。
検索で出てくる金額は、清掃業者が自社の料金として出している表です。見積もりを比べるときは、金額より先に、受水槽と同じ日に行うか、消毒の回数、水張り後の水質確認、汚泥の処理、高所の作業の安全対策が含まれているかをそろえて確かめます。
高架水槽の点検|法定検査で指摘が多い場所
高架水槽の点検は、簡易専用水道なら年1回の法定検査と、設置者が日ごろ行う点検の2つに分かれます。
法定検査は外の機関が水槽の状態と書類を見るもので、日ごろの点検は設置者が自分で行うものです。
法定検査は年1回、受検率は78.0%
簡易専用水道の法定検査は毎年1回以上で、令和4年度に全国で検査を受けた施設は対象の78.0%でした。
国土交通省の集計では、対象206,856施設のうち161,356施設が検査を受けました。検査を受けた施設のうち、何かの指摘を受けたのは36,102施設で、検査指摘率は22.4%です。受検率は自治体の種類で違い、保健所設置市は82.1%、特別区は71.5%でした。
高置水槽で指摘が多いのは通気管とマンホール
令和4年度の法定検査で指摘を受けた施設のうち、高置水槽の通気管の状態は12.4%、マンホールの状態は11.6%でした。
| 高置水槽の項目 | 指摘の割合 |
|---|---|
| 通気管の状態 | 12.4% |
| マンホールの状態 | 11.6% |
| 高置水槽本体の状態 | 7.4% |
| 高置水槽内部の状態 | 6.6% |
| オーバーフロー管の状態 | 4.4% |
| 高置水槽上部の状態 | 1.8% |
| 水抜き管の状態 | 1.4% |
国土交通省「貯水槽水道及び飲用井戸等に係る衛生管理状況について」(令和4年度)をもとに作成。分母は検査で指摘を受けた施設(36,102)で、1施設に複数の指摘がある
同じ分母で、受水槽の指摘はマンホールの状態20.8%、受水槽本体の状態14.5%でした。通気管とマンホールは、ほこりや虫が入らないよう告示で構造が決められている場所です。
日常の点検で見る場所
日常の点検では、水槽の内面と外壁、水漏れやさび、マンホールの密閉、通気管の防虫網、水位の警報を見ます。
特定建築物の管理基準である告示119号は、水槽の内面の損傷や劣化、水漏れ、外壁の損傷・さび・腐食、マンホールの密閉状態、オーバーフロー管と通気管の防虫網、ボールタップや満水・減水の警報、揚水ポンプを「定期に」点検するとし、回数は決めていません。水道法施行規則55条は、給水栓の水の色・濁り・臭い・味に異常があれば必要な項目の水質検査を行い、人の健康を害するおそれがあれば給水を止めるよう求めています。
罰則は検査を受けないときと、給水停止命令に違反したとき
簡易専用水道の法定検査を受けないと100万円以下の罰金で、清掃をしないこと自体には直接の罰則がありません。
検査を受けないことは水道法54条8号の罰金の対象です。清掃などの管理が基準に合わないと、都道府県知事などが水道法36条3項にもとづき改善を指示し、従わないと37条で給水停止を命じられます。命令に違反すると、53条10号で1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。札幌市は、2024年12月29日に雑居ビルの地下の受水槽に汚水が入ってノロウイルスの食中毒が起きた件で、2025年1月17日に36条3項にもとづきビルの所有者へ改善を指示しました。
高架水槽の交換の目安|耐用年数15年の意味と、地震への備え
高架水槽の交換の時期を決めた法令は無く、「耐用年数15年」は税務の減価償却に使う年数です。
交換を考える材料は、点検の指摘、漏水、部品が手に入るか、地震への強さです。
15年は税務の年数で、寿命ではない
耐用年数省令の別表第一で、建物附属設備の「給排水又は衛生設備」は15年と決まっていますが、物理的な寿命ではありません。
これは減価償却の計算に使う年数で、15年を過ぎた水槽を交換する義務はありません。国土技術政策総合研究所(国総研)などの地震の調査報告には、1996年に施工されたFRP製の高置タンクが「メーカの推奨する耐用年数15 年を超えて使用されていた」という記載があります。この報告書で15年は、メーカーが推奨する耐用年数として書かれています。
古い水槽は部品が手に入らなくなる
設置から30年以上たった高置タンクで、壊れたパネルの代わりの部品が無く撤去された例が国の調査にあります。
同じ報告書は、この高置タンクは「設置から30 年以上が経過しているために損傷したパネルの代替部品がない」ため、調査の時には撤去されていたと書いています。古い水槽では、壊れてから部分的に直す道が無くなることがあります。
地震の調査で被害の筆頭は高置タンク
2022年3月の福島県沖地震で宮城・福島の20棟を調べた国総研などの調査では、主な被害の筆頭に高置タンクが挙がりました。
報告書には、塔屋の上のGFRP製の高置タンクが壊れて地震の10日後に応急復旧するまで上水が使えなかった建物、2槽式のタンクの片側が壊れて貯水能力が22tから11tに半減した建物、ステンレスのパネルの接合部から漏水した建物があります。過去の地震では被害がなかった高置タンクが、2022年の地震で初めて壊れた例も複数ありました。調べた20棟の結果で、全国の被害率ではありません。
屋上の水槽の耐震の基準
屋上から突き出た水槽は、建築基準法施行令129条の2の3第3号により、構造計算で地震への安全を確かめます。
平成12年建設省告示1389号は、屋上水槽の地震力をP=kwとし、水平震度kを地域係数Zの1.0倍以上としています。国の公共建築工事標準仕様書は、特記がなければタンクの設計用水平震度を屋上と上層階で1.0、中間階と1階・地下で0.6とし、液面の揺れ(スロッシング)でも壊れない強度を求めています。名古屋市は、受水槽や高置水槽の出口に緊急遮断弁を付けると、地震のときに水を確保できると案内しています。
高架水槽を撤去するかの判断|直結給水に切り替える前に
高架水槽の撤去は直結給水への切り替えとセットで、水圧・階数・口径の条件と、失う貯水を比べて決めます。
撤去したほうがよい建物も、残したほうがよい建物もあり、一律には決まりません。
| 判断の材料 | 確かめること | 根拠 |
|---|---|---|
| 水圧と階数 | 直圧で最上階まで届くか、増圧なら何階・何戸まで送れるか | 東京都・大阪市・名古屋市、横浜市の水圧調査 |
| メーターの口径と水の使い方 | 大阪市の目安は口径75mm以下、薬品を扱わない、一時に大量の水を使わない建物 | 大阪市水道局 |
| 道路からの給水管 | 太くする工事が要るか。東京都は道路部分からメーターまでを水道局が施工し、宅地内の舗装復旧は利用者の負担 | 東京都水道局 |
| 水道料金 | メーターの口径が大きくなると料金が上がる場合がある | 東京都水道局 |
| 残る点検 | 増圧ポンプを置けば、その定期点検が残る | 東京都水道局・横浜市水道局 |
| 災害時の水 | 直結は貯留機能がなく断水することがある | 東京都水道局・大阪市水道局 |
東京都・大阪市・横浜市・名古屋市の水道局の案内をもとに作成。条件は自治体ごとに違い、実際にできるかは水道局との協議で決まる
切り替えられるかは水圧・階数・口径で決まる
直結給水に切り替えられるかは、配水管の水圧、建物の階数と戸数、メーターの口径、水の使い方で決まります。
大阪市水道局は、口径75mm以下のメーターを付ける建物で、毒物や薬品を扱わず、一時に多量の水を使わない建物なら、基本的に直結方式にできるとしています。東京都では、道路部分からメーターまでの給水管を太くする必要があれば、平成24年12月1日以降の申請分から水道局が工事を行います。給水管の材質や更新の目安は給水管の記事で扱っています。
撤去で清掃と法定検査はなくなるが、増圧ポンプの点検は残る
東京都水道局は直結への切り替えで「貯水槽の点検・清掃が不要です」としていますが、増圧ポンプを置けばその点検は残ります。
受水槽が無くなれば簡易専用水道の区分から外れ、水槽の清掃と法定検査も要らなくなります。東京都水道局は、増圧給水設備を置いた場合は1年以内に1回の定期点検が必要としています。横浜市は、増圧ポンプの工事費と維持管理費は設置者の負担としています。
失うのは災害時にためておける水
直結給水には水をためる機能が無いため、東京都は事故や災害のときに断水することがあると説明しています。
貯水槽水道方式なら「事故や災害時等に、貯水槽内に残っている水は使用できます」。一方で大阪市は、直結直圧なら配水管が健全である限り停電しても断水しないが、受水槽方式は停電でポンプが止まり、高架水槽の水を使い切ると断水すると説明しています。どちらが強いかは、止まるのが水道か電気かで入れ替わります。
撤去の手続きと費用は水道局に確かめる
東京都・大阪市・横浜市・名古屋市の公式ページに、高架水槽の撤去の手続きや撤去費の助成の記載は見つかりませんでした。
東京都水道局が案内しているのは助成金ではなく融資の制度で、無料の「直結切替え見積りサービス」は令和3年3月31日で終わっています。平成24年12月以降に設置された貯水槽水道方式の建物は、水道局が行う増径工事の対象外です。手続きと費用は、建物のある自治体の水道局に確かめます。
被災をきっかけに撤去した病院もある
能登半島地震の国の調査には、高置タンクが壊れた医療施設が、タンクを撤去して加圧ポンプ方式に改めた例があります。
この施設では、30年前に置いたFRP製の受水タンクの上部が壊れて40m³のうち約15m³までしかためられなくなり、FRP製の高置タンクも漏水してまったくためられなくなりました。受水タンクは更新し、高置タンクは撤去して加圧ポンプ方式に改修しています。調査した施設の例で、撤去を勧める根拠ではありません。
災害時の高架水槽と、地下水という備え
停電でポンプが止まっても高架水槽に残った水は重力で使えますが、使える量は水槽の容量までです。
断水が長引くときは、ためた水とは別の水源をどう持つかが問題になります。
停電しても使えるが、量は水槽の容量まで
東京都のリーフレットは、高置水槽の水は停電時でも活用でき、汚染がなければそのまま使えるとしています。
あわせて「残留塩素濃度が0.1mg/L 以上あることも確認してください」と書いています。ためられる量は水槽の容量までで、能登半島地震では、無傷の受水タンク8m³が断水から数時間で空になった庁舎がありました。断水がどのくらい続くかの過去の例は断水の期間の記事にまとめています。
井水で給水を続けた病院
能登半島地震の調査では、市の水道が止まったあとも井水で給水を続け、病院の機能を保った医療施設がありました。
この施設では、3病棟でFRPの上水用の高置タンクに穴が開きましたが、井水用の高置タンクに切り替えて給水しました。別の医療施設では受水タンク288m³と高置タンク43m³がどちらも壊れ、地震直後から全館で水が使えなくなり、市の水道の再開は1月31日、透析の再開は2月7日でした。どちらも調査した施設の例です。
国の断水対策にも地下水の活用が入った
国土交通省中部地方整備局は2024年6月、大規模断水の対策の案に、防災用井戸や企業用井戸などの地下水の活用を挙げました。
背景は、能登半島地震で6県38事業者、最大約14万戸に及んだ断水です。案では、応急給水の対策として給水栓付きの受水槽や耐震性の貯水槽と並べて地下水が挙がっています。施設の水の備えの全体はBCP対策の記事で整理しています。
当社が扱うシステムは受水槽を通して給水する
当社が扱う地下水飲料化システムでは、浄水して水質基準を満たした地下水を受水槽へ入れ、施設の給水系統へ送ります。
受水槽から先は施設の給水の仕組みを使うため、高架水槽のある建物でも給水の流れは変わりません。地下水を水源に混ぜると水道法の区分が変わるので、区分の判定は水道法の記事を見てください。仕組みはシステムのページ、地下水の性質は地下水の記事で紹介しています。
高架水槽についてのよくある質問
Q. 高架水槽と高置水槽は違うものですか
A. 同じ屋上の水槽を指します。国土交通省の集計や建築物衛生法の告示、東京都などの水道局は「高置水槽」と書き、辞書は「高架水槽」の項目を立てています。どちらが正式な名前かを法令で決めた資料は見つかりませんでした。
Q. 受水槽が10m³以下なら、高架水槽の清掃はしなくてよいですか
A. 水道法の義務はかかりませんが、自治体の条例や要綱で清掃を求められます。横浜市は条例で毎年1回以上の清掃を義務にし、東京都は病院や学校に給水するものか5m³を超えるものに清掃と検査を求めています。清掃のほかに報告も求める自治体があり、東京都は条例7条・12条により点検や管理の状況を毎年報告するよう求め、横浜市は8m³以下(地下式を除く)の受水槽に清掃後の自己点検の結果を市長へ報告するよう求めています。
Q. 高架水槽の清掃は、受水槽と同じ日に行う必要がありますか
A. 告示119号が決めているのは「受水槽の清掃を行った後、高置水槽」という順番で、同じ日に行うことは書かれていません。日を分けるときも受水槽を先に清掃し、その間の給水をどうするかを業者と決めておきます。
Q. 高架水槽を撤去すれば、点検は何もいらなくなりますか
A. 受水槽も無くせば水槽の清掃と法定検査は要らなくなりますが、増圧直結にした場合は増圧ポンプの点検が残ります。東京都水道局は、増圧給水設備は1年以内に1回の定期点検が必要としています。高架水槽だけを撤去して受水槽を残す形なら、受水槽の清掃と検査は続きます。
Q. 地震や停電のあと、高架水槽の水は飲めますか
A. 水槽が壊れておらず汚染がなければ使えますが、飲む前に残留塩素を確かめます。東京都のリーフレットは残留塩素0.1mg/L以上を確認するよう求めています。濁りや臭いがあるとき、水槽にひびや漏れがあるときは、飲まずにトイレなどの雑用に回します。
参考情報
- 水道法、同法施行令・施行規則(e-Gov法令検索、2026年10月14日時点)
- 建築物衛生法施行令・施行規則、厚生労働省告示第119号(空気調和設備等の維持管理及び清掃等に係る技術上の基準)、厚生労働省「建築物衛生法について」(令和8年9月)
- 建築基準法施行令、建設省告示第1597号・第1389号、国土交通省「公共建築工事標準仕様書(機械設備工事編)」
- 減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第一
- 国土交通省「貯水槽水道及び飲用井戸等に係る衛生管理状況について」(令和4年度)、国土交通白書2024
- 国土技術政策総合研究所ほか「2022年3月16日福島県沖地震による建築物の被害調査」、同 能登半島地震の建築設備の被害調査(2025年11月)
- 国土交通省中部地方整備局 大規模断水対策の中間とりまとめ(案)(2024年6月)
- 東京都水道局 給水方式・直結給水への切替え、東京都保健医療局「簡易専用水道の衛生管理」、東京都の直結給水率の資料
- 大阪市水道局、横浜市水道局、名古屋市上下水道局の給水方式と貯水槽水道の案内、札幌市保健所の発表
- ブリタニカ国際大百科事典「高架水槽」(コトバンク)
