企業の災害対策とは、地震や水害に備えて、従業員と来客の命を守り、二次災害を防ぎ、事業を続けるための準備です。
何をどこまでやるかは、法律と条例、建物の用途、業種で変わります。この記事では、法律と条例が企業に求めていること、平時・発災直後・その後にやること、国と東京都の備蓄の目安、ほかの企業の取り組みの進み具合、水の項目の決め方、手伝う会社の種類を、法令の条文と国の資料をもとに書きます。
この記事でわかること
- 全ての企業に一律の法律はない:従業員の安全への配慮、建物の防火・防災管理、地域の条例、業種ごとの基準に分かれています。
- 東京都は3日分の備蓄を努力義務にしている:条例は、従業者の一斉帰宅を抑え、3日分の飲料水や食糧を備えるよう求めています。
- 備蓄の目安は1人あたり水9L・主食9食・毛布1枚:来客の分として10%程度を余分に備えます。
- 飲料水の3日分は、中堅企業の半分に届いていない:内閣府の令和7年度の調査で、3日分以上の備蓄は中堅企業で43.0%でした。
- 水は5つの順に決める:誰の分を、何日分、何に使う水として、どこから確保し、止まったとき誰が動くかです。
企業の災害対策とは|従業員と来客の命を守り、二次災害を防ぎ、事業を続けるための備え
企業の災害対策は、人と建物の被害を小さくする防災と、止まった事業を早く戻す事業継続の2つでできています。
国の「企業防災のページ」は、事業継続ガイドラインと、企業の事業継続と防災の取組の実態調査を並べて載せています。どちらか一方だけでは、命は守れても事業が戻らない、あるいは計画はあっても発災直後に人が動けない、ということが起こります。
防災と事業継続(BCP)は、守るものが違う
事業継続ガイドラインの整理では、防災は人と拠点の被害を抑える備えで、事業継続は重要な業務を止めない、早く戻す備えです。
内閣府の事業継続ガイドライン(令和5年3月)は、防災活動で検討する対策として、拠点の損害抑制と被災後の早期復旧(耐震補強、備蓄、二次災害の防止、救助・救援、復旧工事など)を挙げ、事業継続では代替拠点の確保や設備の二重化、情報のバックアップといった代替戦略を挙げています。BCPのヒト・モノ・カネ・情報ごとの具体例はBCP対策の具体例で書いています。
国は、規模を問わず全ての企業に取り組みを求めている
事業継続ガイドラインは、資金や人に余裕がない企業も含め、全ての企業・組織に事業継続の取り組みが望まれるとしています。
同じガイドラインは、多額の出費を伴わなくても一定の対応はできるとし、初めから完璧なものを目指さず、できることから取り組みを始めるよう勧めています。小さな会社では、まず連絡手段と備蓄、避難と待機の手順を決めるところから始められます。
「防災対策企業」は、取り組む企業と手伝う会社の両方を指す
「防災対策企業」という言葉は、災害対策に取り組む企業と、防災の商品やサービスを提供する会社の両方の意味で使われます。
当社が2026年11月5日にGoogleで「災害対策企業」「防災対策企業」を調べたところ、上位は企業が取り組む災害対策の解説で、関連する質問には防災設備の大手の会社を尋ねるものも出ていました。この記事は取り組む側の内容を中心に書き、手伝う会社の分野と、頼む前に確かめることは後半の節で整理します。
企業の災害対策は義務か|法律と条例が求めること
全ての企業に一律の法律はなく、従業員の安全への配慮、建物の防火・防災管理、地域の条例、業種ごとの基準に分かれています。
条文の書き方で、求めの強さが変わります。「しなければならない」は義務、「努めなければならない」は努力義務です。次の表は、企業に関係する主な法令と条例を、条文の文言のまま並べたものです。
| 法令・条例 | 誰に | 何を求めるか | 条文の書き方 |
|---|---|---|---|
| 労働契約法 第5条 | 使用者 | 労働者が生命、身体等の安全を確保しつつ働けるよう、必要な配慮をする | 「ものとする」 |
| 消防法 第8条 | 学校・病院・工場・事業場・百貨店など、政令で定める建物の管理について権原を有する者 | 防火管理者を定め、消防計画の作成、消火・通報・避難の訓練などを行わせる | 「しなければならない」 |
| 消防法 第36条 | 火災以外の災害に備える必要がある、政令で定める建物など | 第8条を読み替えて、防災管理者を定め、避難の訓練などを行わせる | 第8条を準用 |
| 災害対策基本法 第7条第2項 | 災害の応急対策や復旧に必要な物資・資材・役務を供給・提供する事業者 | 災害時も事業を続け、国や自治体の防災の施策に協力する | 「努めなければならない」 |
| 東京都帰宅困難者対策条例 第4条 | 事業者 | 従業者と施設の安全の確保、従業者との連絡手段の確保、待機と帰宅の方針を計画で明らかにして周知する | 「努めなければならない」 |
| 東京都帰宅困難者対策条例 第7条 | 事業者 | 従業者の一斉帰宅の抑制と、施設内での待機のための3日分の飲料水・食糧などの備蓄 | 「努めなければならない」 |
表1 企業の災害対策にかかわる主な法令と条例(当社の整理)。e-Gov法令検索の条文と、東京都帰宅困難者対策ハンドブックに載る条例全文をもとに作成(2026年11月5日に確認)
従業員の安全への配慮は、労働契約法が定める
労働契約法第5条は、使用者に、労働者が生命や身体の安全を確保しながら働けるよう、必要な配慮をすることを求めています。
この条文は災害に限った規定ではありません。ただ、勤務中に地震が起きたときに避難させるか、建物に待機させるか、いつ帰宅させるかの判断は、従業員の安全にかかわる場面です。判断の基準を平時に決めておくと、発災直後に迷わずに済みます。
防火管理と防災管理は、建物の用途と規模で決まる
消防法は、多数の人が出入りし、勤務する一定の建物について、防火管理者を定め、消防計画を作り、訓練を行うことを義務づけています。
対象になるのは、学校、病院、工場、事業場、百貨店などのうち政令で定める建物で、管理について権原を有する者が防火管理者を定めます。第36条は、火災以外の災害の被害を軽くするため特に必要な、政令で定める建物に同じ仕組みを当てはめ、防災管理者を置かせています。消防法施行規則は、施行令の別表第一に挙げる一部の用途の建物では、防火管理者が消火訓練と避難訓練を年2回以上行うよう定めています。対象かは所轄の消防署で確かめます。
物資やサービスを扱う事業者は、災害時も事業を続けるよう努める
災害対策基本法は、災害対応の物資や役務を供給する事業者に、災害時も事業を続け、国や自治体に協力する努力義務を課しています。
第7条第2項の対象は、災害応急対策または復旧復興に必要な物資、資材、役務の供給や提供を業とする者です。条文に業種の一覧は無く、自社が当たるかは、取引のある自治体との協定や、地域防災計画での位置づけから確かめます。
東京都は、条例で一斉帰宅の抑制と3日分の備蓄を求めている
東京都帰宅困難者対策条例は、従業者の一斉帰宅を抑え、3日分の飲料水や食糧を備蓄するよう、事業者に努力義務を課しています。
条例は2013年4月に施行されました。第7条は、大規模災害のときに施設の安全と周辺の状況を確かめたうえで従業者を施設内に待機させ、そのために3日分の飲料水、食糧その他の物資を備蓄するよう求めています。第4条は、従業者との連絡手段の確保や、待機と帰宅の方針を事業所防災計画などで明らかにして周知することを求めています。東京都のハンドブックは、3日分の量は目安で法的拘束力はないとしています。東京都以外に拠点がある場合は、その地域の条例を確かめます。
業種によっては、計画や水の確保が基準になっている
介護サービスの事業所はBCPの策定が運営基準で求められ、災害拠点病院は少なくとも3日分の水の確保が指定要件です。
介護サービスは、令和6年4月から全てのサービスで業務継続計画の策定が求められていて、未策定の場合の減算もあります(詳しくは介護施設のBCP)。災害拠点病院の指定要件は、災害時に少なくとも3日分の病院の機能を維持するための水を確保することとし、受水槽か、停電時にも使える地下水利用の設備を挙げています。
企業の災害対策でやること|平時・発災直後・その後
企業の災害対策は、平時の準備、発災直後に命を守る対応、その後の事業の再開と地域との協力の3つの時期に分けて考えます。
図1 企業の災害対策を時期で分けた図(当社の整理・一般の例)。中小企業庁「事業継続力強化計画 策定の手引き」、東京都帰宅困難者対策ハンドブック、内閣府「事業継続ガイドライン」をもとに作成
平時:体制と計画を決め、備蓄し、訓練する
平時には、誰が指揮をとるか、何を優先するかを計画に書き、備蓄をそろえ、訓練で手順を確かめます。
計画は、消防法の消防計画、東京都の条例が挙げる事業所防災計画、事業を戻すためのBCPと、目的ごとに分かれます。東京都の条例は、待機と帰宅の方針を事業所防災計画その他の事業者が防災のために作る計画で明らかにするよう求めていて、計画の名前は問いません。訓練は、避難だけでなく、従業員と連絡がつくか、備蓄品をどこから出すか、断水したらトイレをどうするかまで試すと、計画の抜けが見つかります。
発災直後:命を守り、状況をつかみ、むやみに帰さない
発災直後は、人命の安全確保、緊急時の体制づくり、被害状況の把握を先に行い、従業員をむやみに帰宅させません。
中小企業庁の事業継続力強化計画の手引きは、初動対応として、人命の安全確保、非常時の緊急時体制の構築、被害状況の把握と被害情報の共有の3つを挙げ、計画に必ず書くこととしています。東京都のハンドブックは、人命救助のリミットが72時間(3日)といわれることを、3日分の備蓄を求める理由に挙げています。事業継続ガイドラインも、大都市圏で無理な出社指示を出すと、水や食糧の不足、トイレの問題が起きると注意しています。
その後:重要な業務を戻し、地域と助け合う
安全が確かめられたら、決めておいた優先順位で重要な業務を再開し、協定があれば地域へ水や場所を提供します。
事業継続ガイドラインは、重要な業務ごとに目標復旧時間を決めるよう求めています。決め方の段階はBCPの策定手順で書いています。同じガイドラインは、地域との協定の内容に水・食料の提供や避難所の提供を例示し、救護や避難の場所になりうる施設を持つ企業は、自家発電、自家水源、代替燃料を平常時から確保することが望ましいとしています。
備蓄の目安|従業員1人あたり水9L・主食9食・毛布1枚
国と東京都の目安では、従業員1人あたり3日分として、水9L(1日3L)、主食9食(1日3食)、毛布1枚を備えます。
内閣府の帰宅困難者対策のガイドライン(令和8年1月)は、企業が従業員を施設内に待機させるための備蓄の目安を3日分とし、3日分以上の備蓄も検討するとしています。
| 品目 | 1人あたり3日分の目安 | 補足 |
|---|---|---|
| 水 | 9L(1日3L) | 東京都は、総務省消防庁の目安と都水道局の成人の基本水量を「1日3L」の根拠に挙げている |
| 主食 | 9食(1日3食) | 調理が要らないものを選ぶ |
| 毛布 | 1枚 | 夜を越す待機に備える |
| その他(特に必要性が高いもの) | 簡易トイレ、トイレットペーパーなどの衛生用品 | 水とは別に数える |
| 来客などの分 | 全体の10%程度を余分に | 外部の帰宅困難者のため |
表2 3日分の備蓄の目安。内閣府「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」(令和8年1月)参考資料2と、東京都帰宅困難者対策ハンドブックをもとに作成
対象は、正規・非正規を問わず職場にいる従業員
備蓄の対象は雇用の形を問わない全従業員で、東京都は発災時に職場にいるであろう従業者の分としています。
内閣府のガイドラインは、対象を、正規・非正規を問わず事業所内で勤務する全従業員としています。東京都のハンドブックは、全従業者が常に職場にいるわけではない会社について、発災時とその直後に職場にいるであろう従業者が3日間待機できる量を備えてほしい、という趣旨だと説明しています。
来客と外部の帰宅困難者の分を10%足す
内閣府のガイドラインと東京都のハンドブックは、来客などの外部の帰宅困難者のために、10%程度を余分に備蓄するとしています。
内閣府の令和7年度の実態調査では、何らかの備蓄をしている企業のうち、従業員以外の帰宅困難者用の余分な備蓄がある企業は32.6%でした。店舗やホテル、病院のように来客が多い施設では、来客の数で上乗せを考えます。
トイレと衛生用品は、水と別に数える
飲み水の1日3Lにトイレの分は入らないため、簡易トイレは人数×1日5回×日数で別に数えます。
内閣府の避難所のトイレのガイドラインは、排泄の回数は1日5回が平均的だとし、携帯トイレはまず3日分を目標にするとしています。従業員50人なら、50人×5回×3日で750回分です。首相官邸の家庭向けの案内も、飲料水とは別に、トイレを流すための生活用水が要るとしています。
置き場所と、テナントビルの備蓄
100人分の3日分の水・食料・毛布は、高さ1mに積むと床面積で約3㎡になり、テナントビルでは原則として各テナントが備えます。
東京都のハンドブックは、100人×3日分の水(2Lのペットボトル)、乾パン、真空パックの毛布を高さ1mに積んだ場合、床面積は約3㎡程度になると試算しています。複数の会社が入るビルについては、条例は事業者の責務としているため原則は各テナントの努力義務で、ビル全体での共同備蓄も妨げない、としています。
企業の災害対策はどこまで進んでいるか|内閣府の実態調査
内閣府の令和7年度の調査では、BCPを策定済みの企業は大企業で75.8%、中堅企業で54.8%でした。
この調査は平成19年から隔年で行われ、令和7年度で10回目です。調査対象は5,052社、回答率は34.8%で、備蓄の設問は回答した1,759社の集計です。企業を業種と資本金・常用雇用者数で大企業、中堅企業、その他企業に分けて集計しています。
| 項目 | 大企業 | 中堅企業 |
|---|---|---|
| BCPを策定済み | 75.8% | 54.8% |
| 飲料水の備蓄がある | 93.2% | 76.7% |
| うち3日分以上 | 66.1% | 43.0% |
| 簡易・携帯トイレの備蓄がない | 12.2% | 37.1% |
表3 企業の事業継続と防災の取組の進み具合。内閣府:政策統括官(防災担当)付 防災計画担当参事官室「令和7年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」(令和8年3月)。調査対象5,052社・回答率34.8%、数値はウェイトバック後の割合
BCPの策定は、大企業の4社に3社、中堅企業の半分ほど
策定済みは大企業75.8%、中堅企業54.8%で、中堅企業は前回の令和5年度調査から9.3ポイント伸びました。
大企業は前回から0.6ポイント下がっています。業種別では、小売業が47.9%、宿泊業・飲食サービス業が41.0%で、どちらも前回から10ポイント以上伸びました。
BCPに書いている項目は、従業員の安全確保が最も多い
報告書の「全体」の値では、BCPに書いている項目は従業員の安全確保が95.0%と最も多く、水・食料などの備蓄は75.3%でした。
2番目は災害対応チームの創設で77.4%です。大企業では、非常用電源・通信設備などの準備を書いている企業が72.5%と、ほかの規模より高くなっています。計画の項目に水が入っていても、量と日数まで決めているかは別に確かめる必要があります。
飲料水の3日分以上の備蓄は、中堅企業で43.0%
飲料水を備蓄している企業は大企業93.2%、中堅企業76.7%ですが、3日分以上は大企業66.1%、中堅企業43.0%です。
調査の概要は、中堅企業では品目によって備蓄している企業が5〜8割とばらつき、特に飲料水・食料品に比べてトイレと毛布を備蓄している企業が少ない、としています。簡易・携帯トイレの備蓄がない企業は、中堅企業で37.1%でした。備蓄を見直すときは、水の量と同時にトイレの数も確かめます。
水の項目の決め方|誰の分・何日・何に使う・どこから・誰が動く
水の項目は、誰の分を、何日分、何に使う水として、どこから確保し、止まったとき誰が動くかの5つを順に決めます。
図2 水の項目を決める順番(当社の整理)。内閣府の帰宅困難者対策のガイドライン、事業継続ガイドライン、水道の耐震化計画等策定指針をもとに作成
| 決めること | 考え方 | 確かめる資料・詳しい記事 |
|---|---|---|
| 誰の分か | 職場にいる従業員+来客の10%程度。地域へ出すなら協定で決めた量 | 帰宅困難者対策のガイドライン、自治体との協定 |
| 何日分か | 備蓄は国と東京都の目安の3日分から。断水が長引く前提で、4日目以降の出どころも決める | 断水はいつまで続くのか |
| 何に使うか | 飲む水(1人1日3L)、トイレ・手洗いの水、製造や洗浄など業務の水を分ける | BCPで水の量を見積もる方法 |
| どこから | 備蓄、受水槽、自治体の応急給水、井戸などの自前の水源 | 応急給水の受け方 |
| 誰が動くか | 受水槽の水を出す人、給水を受け取る人、ポンプや井戸を点検する人 | 消防計画・BCPの役割分担 |
表4 水の項目で決める5つ(当社の整理)。内閣府の帰宅困難者対策のガイドライン、事業継続ガイドライン、水道の耐震化計画等策定指針をもとに作成
誰の分か:職場にいる人と来客、地域の分
まず、水を誰の分として備えるかを、職場にいる従業員、来客、地域の住民に分けて決めます。
従業員と来客の分は、前の節の備蓄の目安で数えられます。地域の分は、自治体や町内会と協定を結んでいる場合だけ、協定で決めた量を足します。協定が無い場合も、地域へ出せる量の上限を先に決めておくと、従業員の分を守れます。
何日分か:3日は最低限で、断水は長引くことがある
3日分は救助が優先される72時間を施設で待機するための目安で、大きな地震の断水はそれより長く続くことがあります。
国の災害時地下水利用ガイドラインは、令和6年能登半島地震では停電の復旧に比べて断水の解消まで相当な期間を要したとしています。事業継続力強化計画の手引きの記載例も、地震で電気と水道が1週間程度止まる想定を置いています。水道事業者が応急給水の目標を決めるための国の指針(水道の耐震化計画等策定指針、平成27年6月)の設定例でも、発災から3日までは1人1日3Lで、7日目には20〜30L、14日目には被災前の量(約250L)と増えていきます。施設が要る量は、この例とは別に施設ごとに見積もります。4日目以降は、備蓄ではなく別の出どころで水を確保する計画が要ります。
何に使うか:飲む水・トイレ・業務の水を分ける
飲む水、トイレや手洗いの水、製造や洗浄などの業務の水は、量も確保の方法も違うため、分けて数えます。
飲む水はペットボトルで備えられますが、トイレを流す水や業務の水は桁が違い、ペットボトルでは足りません。病院の透析や滅菌、工場の洗浄のように、水が止まると業務が止まる用途は、1日に何t使うかを把握しておきます。用途ごとの見積りの方法はBCPの策定手順と水の量で書いています。
どこから:備蓄・受水槽・応急給水・自前の水源
水の出どころは、ペットボトルの備蓄、建物の受水槽、自治体の応急給水、井戸などの自前の水源の4つです。
受水槽は、断水したときにタンクに残っている分だけが使えます。自治体の応急給水は、給水拠点まで取りに行くか、給水車が来るのを待つことになり、施設の使う量をまかなえるとは限りません。事業継続ガイドラインは、事前対策の例に「通信、電源、水をはじめライフラインの代替対策」を挙げています。給水拠点の探し方と給水車の受け方は応急給水の解説で書いています。
誰が動くか:止まったときの担当と手順を書いておく
断水したときに受水槽の水を取り出す人、給水を受け取りに行く人、ポンプや井戸を点検する人を決めて、計画に書きます。
担当が決まっていても、受水槽の非常用の蛇口の場所を知らなければ水は出せません。当社は、訓練で実際に水を止め、どの設備から何時間で水が出せるかを確かめることを勧めています。井戸を災害時に地域へ開く場合の協定と、飲み水に使える条件は防災井戸の解説で書いています。
企業の災害対策を手伝う会社|分野ごとの種類と確かめること
企業の災害対策を手伝う会社は、備蓄品、安否確認、計画づくり、保険、設備の分野に分かれていて、分野ごとに頼む先を選びます。
| 分野 | 頼めること | 頼む前に確かめること |
|---|---|---|
| 備蓄品の販売・管理 | 水・食料・簡易トイレの納品、消費期限の管理と入れ替え | 何人分・何日分で見積もるか、期限切れの入れ替えと処分を含むか |
| 安否確認の仕組み | 従業員への一斉連絡と回答の集計 | 停電や回線の混雑のときにも連絡できるか、訓練で使えるか |
| 計画づくりの支援 | BCPや防災計画の作成、訓練の企画 | 業務の優先順位を決める作業は自社に残る |
| 保険・共済 | 地震や水害の損害、休業の補償 | 補償の範囲と、災害の前に契約が要ること |
| 設備 | 非常用発電機、耐震・止水、受水槽、井戸と浄水設備 | 停電中も動くか、点検と維持管理を誰がするか |
表5 企業の災害対策を手伝う会社の分野(当社の整理)。事業継続ガイドラインの事前対策の例と、中小企業庁の事業継続力強化計画の手引きをもとに作成。社名の比較はしていない
備蓄・安否確認・計画づくりは、決める作業が自社に残る
備蓄品や安否確認、計画づくりを外部に頼んでも、何人分を何日分備え、どの業務を先に戻すかを決めるのは自社です。
事業継続ガイドラインは、重要な業務ごとに目標復旧時間を決めるよう求めています。外部の会社には、決めた数字と優先順位を渡して、その実行を手伝ってもらう形になります。保険や災害時の融資は、災害の前に契約しておかなければ使えないと同じガイドラインは書いています。
設備は、停電中に動くかと維持管理を確かめる
非常用発電機や受水槽、井戸の設備は、停電と断水が重なったときに動くかと、平時に誰が点検するかを確かめます。
井戸の電動ポンプは、停電すると発電機が無い限り水をくめません。災害時地下水利用ガイドラインは、代替電源の確保や手動での併用ができる構造が望ましいとし、災害後には濁りや水質の変化が起こりうるとしています。設備は置いて終わりではなく、点検の担当と費用を契約の前に決めておきます。
国や自治体の支援を先に調べる
中小企業は、事業継続力強化計画の認定を受け、要件を満たすと、浄水装置や揚水ポンプなどの防災設備に税制の優遇を受けられます。
事業継続力強化計画は、中小企業が作った防災・減災の事前対策の計画を経済産業大臣が認定する制度で、令和8年8月末までに累計103,477件が認定されています。中小企業庁の実施要領(令和8年7月16日版)では、認定から1年以内に計画に書いた設備を取得して使うと特別償却16%を受けられ、機械及び装置(100万円以上)には自家発電設備、浄水装置、揚水ポンプが、建物附属設備(60万円以上)には貯水タンクが含まれます。対象は資本金1億円以下の法人などで、認定対象期間は令和9年3月31日までです。日本政策金融公庫の低利融資も支援に挙がっています。東京都の事業者向けページには、企業防災アドバイザー支援事業などの支援が並んでいます。
地下水を施設の水源に加える|当社の地下水飲料化
断水が長引いても施設の水を続ける方法の1つに、深井戸の地下水を浄水して施設へ送る地下水飲料化があります。
当社(株式会社豊)は、井戸を掘る業者ではなく、地下水飲料化システムの代理店です。このシステムは上場企業である供給事業者が事業として運営し、当社サイトの「事業者とシステム」のページの表記では、2025年4月現在、供給事業者のシステムが全国66地点で稼働しています。
停電中も給水を続けるには、非常用電源との接続を決めておく
井戸と浄水設備は電気で動くため、停電と断水が重なっても給水を続けるには、非常用発電機につないでおく必要があります。
当社サイトの災害時の水源確保のページでは、東日本大震災のときにこの設備を導入していたある病院が、非常用電源で井戸と浄水処理プラントを動かし、数日間、病院のすべての飲用水と医療用水を井戸の浄化処理水でまかなった例を紹介しています。導入の段階で非常用電源との接続まで決めておくことが条件です。
供給事業者のシステムと、当社の役割
このシステムは供給事業者が井戸の掘削から運転と維持管理までを受け持ち、当社は相談から運用中の連絡までの窓口を受け持ちます。
当社サイトの事業者とシステムのページのとおり、供給事業者が井戸業者やプラントメーカーと契約して、水を通しにくい層を2〜3層掘り下げた深さ約100mの深井戸と浄水設備を整えます。水道の契約はそのまま残し、浄水設備に異常があれば水道水に自動で切り替わります。当社サイトの災害時の水源確保のページの表記では、ふだんから施設の水の50〜90%を地下水が受け持つため、災害のためだけの設備になりません。
検討するときに確かめること
導入できるかは、水道の使用量、受水槽の状況、敷地に井戸を掘る場所、地下水の採取の規制で決まります。
まず、毎月の水道の使用量と受水槽の容量を確かめます。浄水した地下水を飲み水に使う施設は、規模によって専用水道に当たり、届出と水質検査の義務がかかります。地下水のくみ上げに自治体の規制がかからないかも確かめます。
企業の災害対策についてのよくある質問
企業の災害対策について、本文に無い条件や例外を5つの質問で答えます。
Q. 災害が起きたら、従業員を必ず3日間会社に留めますか
A. 必ずではありません。東京都のハンドブックは、最長3日間ほどは行政が救助・救命を優先するため留まってほしいという趣旨だとしたうえで、道路の安全などが確保され、二次災害のおそれが無い場合は、3日を待たずに帰宅してよいとしています。帰すときの判断の基準と順番を、平時に決めておきます。
Q. テナントとして入っているビルでは、備蓄は誰が用意しますか
A. 原則として各テナントが用意します。東京都のハンドブックは、条例が事業者の責務としているため、備蓄は事業者単位で各テナントの努力義務になり、ビル全体での共同備蓄も妨げないとしています。ビルの管理者と置き場所を相談しておきます。
Q. 防災訓練は、年に何回行いますか
A. 建物の用途で決まっている場合があります。消防法施行規則は、施行令の別表第一に挙げる一部の用途の建物で、防火管理者に消火訓練と避難訓練を年2回以上行うよう定めています。内閣府の帰宅困難者対策のガイドラインは、大規模な集客施設に、年1回以上の実動訓練や図上訓練で手順を確かめるよう求めています。
Q. 備蓄品の費用に、補助はありますか
A. 一部の区市町村が補助を行っています。東京都のハンドブックは、備蓄の補助を一部の区市町村が実施していると答えています。設備では、中小企業が事業継続力強化計画の認定を受け、認定から1年以内に計画に書いた設備を取得するなど要件を満たすと、浄水装置や揚水ポンプなどに特別償却16%の税制を使えます(認定対象期間は令和9年3月31日まで)。
Q. 防災対策を手伝う大手の会社はどこですか
A. 分野ごとに大手が違うため、先に頼む分野を決めます。備蓄品、安否確認、計画づくり、保険、設備で頼む先が分かれ、1つの会社で全部がそろうとは限りません。何人分・何日分・どの業務を先に戻すかを自社で決めてから、分野ごとに見積もりを取ります。
参考情報
法令と国・自治体の資料は2026年11月5日に確認しました。
- e-Gov法令検索「労働契約法」
- e-Gov法令検索「消防法」
- e-Gov法令検索「消防法施行規則」
- e-Gov法令検索「災害対策基本法」
- 内閣府「企業防災のページ」
- 内閣府「事業継続ガイドライン」(令和5年3月)
- 内閣府「令和7年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査(概要)」
- 内閣府「令和7年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査 報告書」
- 内閣府「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」(令和8年1月)
- 内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」
- 首相官邸「災害に対するご家庭での備え」
- 東京都「東京都帰宅困難者対策ハンドブック」
- 東京都防災ホームページ「事業者向け」
- 中小企業庁「事業継続力強化計画」
- 中小企業庁「中小企業防災・減災投資促進税制の運用に係る実施要領」
- 中小企業庁「事業継続力強化計画 策定の手引き」
- 内閣官房水循環政策本部事務局・国土交通省「災害時地下水利用ガイドライン」(令和7年3月)
- 厚生労働省「水道の耐震化計画等策定指針」(平成27年6月)
- 厚生労働省「災害拠点病院指定要件の一部改正について」(令和5年2月)
