介護施設のBCPとは、感染症や災害の中でも介護を続け、業務を早く再開するための計画で、令和6年4月から義務です。
作っていない施設・事業所は、令和6年度の介護報酬改定で新しくできた「業務継続計画未策定減算」の対象になります。この記事では、介護施設の施設長・事務長と法人本部の方に向けて、運営基準の条文が求めること、減算の率と始まった時期、研修と訓練の回数、厚生労働省のガイドラインに書くこと、BCPと別にある防災の計画、そして水が止まったときの備えを、国の資料の原文から整理します。
この記事でわかること
- 義務は4つ:運営基準は、BCPを作ること、職員に知らせること、研修と訓練を定期的に行うこと、定期的に見直すことを求めています。令和6年3月31日までは努力義務でした。
- 作っていないと3%か1%の減算:感染症か災害のどちらか一方でも作っていないか、計画に従った措置を講じていなければ、施設・居住系は所定単位数の3%、その他のサービスは1%が減ります。運営指導で見つかると、作っていなかった時点まで遡ります。
- 研修と訓練は施設で年2回以上:解釈通知は、研修を年2回以上と新規採用時に、訓練を年2回以上、机上と実地を組み合わせて行うよう求めています。
- 防災の計画は別に3つある:非常災害対策計画、浸水や土砂災害のおそれがある施設の避難確保計画、消防計画です。BCPとは根拠の法令も目的も違います。
- 水は飲料水と生活用水に分けて書く:厚生労働省のガイドラインは、水を1人1日3リットル、3日分備えるよう示し、生活用水は水を使わない代わりの手段を基本にしています。受水槽と地下水の給水設備は国の交付金の対象です。
介護施設のBCPとは|災害や感染症の中でも介護を続ける計画
介護施設のBCPは、感染症や災害が起きても入所者へのサービスを続け、止まった業務を早く再開するための計画です。
BCPは英語のBusiness Continuity Planの略で、辞書は「災害や事故などが発生した場合に、企業や行政組織が基幹事業を継続したり、早期に事業を再開するために策定する行動計画」と説明しています(デジタル大辞泉)。介護の運営基準では「業務継続計画」と呼びます。介護施設の中核の業務は、入所者の食事・排せつ・服薬・水分補給といった命に関わるケアです。
運営基準の条文が求める4つのこと
運営基準は、BCPを作って従うこと、職員に知らせること、研修と訓練を定期的に行うこと、定期的に見直すことの4つを求めています。
特別養護老人ホームの運営基準(指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準)第24条の2は、「感染症や非常災害の発生時において、入所者に対する指定介護福祉施設サービスの提供を継続的に実施するための、及び非常時の体制で早期の業務再開を図るための計画」を作り、その計画に従って必要な措置を講じなければならない、と定めています。第2項が職員への周知と研修・訓練の定期的な実施、第3項が定期的な見直しです。介護老人保健施設は第26条の2、訪問介護は居宅サービスの基準の第30条の2に同じ形の条文があり、ほかのサービスにも準用されています。
感染症と自然災害の2本を作る
介護施設のBCPは、感染症が起きたときと自然災害が起きたときの両方に対応する計画が要ります。
条文の「感染症や非常災害の発生時」を受けて、厚生労働省はガイドラインとひな形を「感染症発生時」と「自然災害発生時」に分けて出しています。電気・ガス・水道が止まったときの対策は、自然災害のガイドラインに書かれています。文書は2本に分けても、1つにまとめてもかまいません(後の「4つはまとめて作ってよい」で説明します)。
防災の計画とは目的が違う
BCPは「業務を続け、再開する」ための計画で、命を守って避難する防災の計画とは目的が違います。
厚生労働省の自然災害ガイドラインも、消防法・水防法・厚生労働省令で別々に求められる計画があることを示しています。防災の計画は災害の直後に入所者と職員の命を守ることを、BCPはその後に介護を続けることを受け持ちます。どちらか一方では足りず、両方を作ります。防災の3つの計画は、後の「介護施設の防災」の章で表にまとめました。
BCPの義務化|令和6年4月からすべての介護サービスに
介護施設のBCPは、令和3年度の介護報酬改定で運営基準に入り、3年の経過措置を経て令和6年4月から義務になりました。
令和3年度改定と3年の経過措置
BCPの策定などは令和3年度の改定で義務づけられ、令和6年3月31日までは努力義務とされていました。
厚生労働省の解釈通知(老企第43号)は、「業務継続計画の策定等に係る義務付けの適用に当たっては、令和3年改正省令附則第3条において、3年間の経過措置を設けており、令和6年3月31日までの間は、努力義務とされている」と書いています。経過措置が終わった令和6年4月からは、努力義務ではなく義務です。
対象はすべての介護サービス
BCPの義務は、特養や老健などの施設だけでなく、通所・訪問・居宅介護支援を含むすべての介護サービスにかかります。
条文は施設ごとの基準と、居宅サービス・地域密着型サービスなどの基準のそれぞれにあります。小規模な事業所や訪問介護も対象から外れません。障害福祉サービスにも同じ形の義務がありますが、この記事では介護保険のサービスに絞って書きます。
策定の進み具合
厚生労働省の調査では、令和5年7月時点で、自然災害のBCPを作り終えていた事業所は27.0%でした。
介護報酬改定の検証の調査(23サービスの事業所が対象)で、回答した5,200事業所に占める割合です。作っている最中の事業所が半数を超え、まだ手をつけていない事業所も感染症で15.5%、自然災害で17.0%ありました。義務になる9か月前の値で、令和6年4月以降の全国の策定率は公表されたものを確認できていません。
| BCPの種類 | 策定完了 | 策定中 | 未策定(未着手) | 無回答 |
|---|---|---|---|---|
| 感染症のBCP | 29.5% | 54.8% | 15.5% | 0.2% |
| 自然災害のBCP | 27.0% | 55.2% | 17.0% | 0.8% |
表1 介護事業所のBCPの策定状況(令和5年7月時点、回答5,200事業所)。厚生労働省「介護報酬改定検証・研究委員会」資料(令和6年2月)から作成
業務継続計画未策定減算|施設・居住系は3%、その他は1%
BCPを作っていない施設・事業所は、施設・居住系サービスで所定単位数の3%、その他のサービスで1%が減算されます。
令和6年度の介護報酬改定で新しく設けられた減算です。
減算になる条件
感染症と自然災害のどちらか一方でもBCPを作っていない場合や、BCPに従った措置を講じていない場合が減算の対象です。
厚生労働省の介護報酬改定Q&A(Vol.6、令和6年5月17日)の問7は、「感染症若しくは災害のいずれか又は両方の業務継続計画が未策定の場合や、当該業務継続計画に従い必要な措置が講じられていない場合に減算の対象となる」と答えています。同じ問で、職員への周知・研修・訓練・見直しをしているかどうかは減算の算定要件ではない、としています。ただし、周知・研修・訓練・見直しは運営基準の条文が「しなければならない」と定める義務で、減算にならないから行わなくてよいものではありません。
サービスごとの始まり
減算は、施設や通所介護が令和6年4月、通所リハが6月、訪問系と居宅介護支援が令和7年4月に始まりました。
| 区分 | 主なサービス | 減算の始まり | 減算の率 |
|---|---|---|---|
| 施設・居住系 | 介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院、特定施設入居者生活介護、認知症対応型共同生活介護 など | 令和6年4月 | 3% |
| 通所・短期入所など | 通所介護、短期入所生活介護 など | 令和6年4月 | 1% |
| 通所リハビリテーション | 通所リハビリテーション | 令和6年6月 | 1% |
| 訪問系など | 訪問介護、訪問看護、福祉用具貸与、居宅介護支援 など | 令和7年4月 | 1% |
表2 業務継続計画未策定減算の始まりと率。厚生労働省「令和6年度介護報酬改定の主な事項について」と介護報酬改定Q&A(Vol.1)問165から作成。対象サービスの全体はQ&Aの表で確かめてください
経過措置は令和7年3月で終わった
令和7年3月31日までは、感染症の指針と非常災害の計画を整えていれば減算しない経過措置がありましたが、今は終わっています。
経過措置は、BCPが無くても「感染症の予防及びまん延の防止のための指針」と「非常災害に関する具体的計画」を整えていれば減算しない、というものでした。令和7年4月からは、この2つがあってもBCPそのものが無ければ減算の対象です。
運営指導で見つかると遡る
運営指導などでBCPが無いと分かった場合、分かった月からではなく、無かった時点まで遡って減算されます。
Q&Aの問166は、令和7年10月の運営指導で通所介護事業所のBCPが無いと分かった例で、令和6年4月から減算の対象になる、と示しています。遡る期間が長いほど、返す報酬が大きくなります。
BCPの研修と訓練|施設は年2回以上
条文は研修と訓練を「定期的に」と定め、施設の解釈通知がどちらも年2回以上、研修は新規採用時にも行うとしています。
研修は年2回以上と新規採用時
研修は年2回以上開き、新しく採用した職員には別に研修を行い、行った内容を記録に残します。
施設の解釈通知(老企第43号)は、「職員教育を組織的に浸透させていくために、定期的(年2回以上)な教育を開催するとともに、新規採用時には別に研修を実施すること。また、研修の実施内容についても記録すること」と書いています。感染症のBCPの研修は、感染症の予防とまん延防止の研修と一緒に行ってもかまいません。研修と訓練は、すべての職員が参加できるようにするのが望ましい、とされています。
訓練は机上と実地を組み合わせる
訓練は年2回以上、役割分担の確認やケアの演習を行い、机上と実地を組み合わせるのが適切とされています。
解釈通知は、訓練(シミュレーション)について「施設内の役割分担の確認、感染症や災害が発生した場合に実践するケアの演習等を定期的(年2回以上)に実施する」としています。実施の方法は、「机上及び実地で実施するものを適切に組み合わせながら実施することが適切」とされています。厚生労働省のガイドラインのページには、机上訓練の進め方を解説した研修動画もあります。
非常災害対策の訓練と一緒にできる
自然災害のBCPの訓練は、運営基準の非常災害対策で求められる避難・救出の訓練と一緒に行ってかまいません。
解釈通知は、「災害の業務継続計画に係る訓練については、非常災害対策に係る訓練と一体的に実施することも差し支えない」としています。研修と訓練は、ほかのサービス事業者と連携して行うこともできます。同じ法人の施設や近くの事業所と合同で行えば、職員の応援や利用者の受け入れの段取りも一緒に確かめられます。
厚労省のガイドラインとひな形|自然災害BCPに書くこと
自然災害のBCPは、厚生労働省のガイドラインとひな形に沿って、総論、平常時の対応、緊急時の対応、地域との連携の順に書きます。
ガイドラインとひな形は、厚生労働省の介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修のページにあります。感染症のひな形は入所系・通所系・訪問系に分かれ、令和5年度に例示を入れた版も出ています。BCPを作る手順の全体はBCPの策定手順の記事で6つの段階に分けて解説しています。
ひな形の構成
自然災害のひな形は、総論、平常時の対応、緊急時の対応、他施設や地域との連携の4つの部分でできています。
厚生労働省「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」とひな形の章立てをもとに作成
解釈通知も、災害のBCPに書く項目として、建物・設備の安全対策、電気・水道などのライフラインが止まった場合の対策、必要品の備蓄などの平常時の対応と、緊急時の対応、他施設と地域との連携を挙げています。
ライフラインが止まった日ごとの影響
ガイドラインは、電力・飲料水・生活用水・ガスなどが、当日から9日目まで施設にどう響くかを表に書き出すよう示しています。
自施設で想定される影響を、ハザードマップと過去の被害から見積もり、日ごとに並べます。ポンプで上の階へ水を送る建物では、停電で給水ポンプが止まると、断水していなくても上の階に水が上がりません。電気と水は別々の行に書きますが、設備の上ではつながっていることを表の中で確かめます。
優先する業務と発動基準
BCPには、どの業務を続け、どの業務を減らすかと、どんな状況になったらBCPを動かすかを決めて書きます。
ガイドラインの例では、水分補給や服薬などは続け、入浴介助は清拭に切り替えるなど、職員と物資が足りない中で優先する業務を時間の経過ごとに整理します。発動基準は、震度や警報などあいまいさの無い条件で決めておきます。
他施設と地域との連携
BCPには、同じ法人やほかの施設との応援の取り決めと、地域の避難者を受け入れる場合の役割も書きます。
介護施設は、福祉避難所に指定されていることがあり、災害時には入所者のほかに地域の高齢者を受け入れる側になります。受け入れる人数が増えれば、水と食料の量もそれだけ増えます。能登半島地震では、国と全国社会福祉協議会が他県の介護職員を被災地の施設へ派遣する仕組みを整えました(令和6年版厚生労働白書)。
介護施設の防災|BCPと別にある3つの計画
介護施設の防災には、BCPとは別に、非常災害対策計画、避難確保計画、消防計画の3つの計画があります。
| 計画 | 根拠 | 対象 | 求められること |
|---|---|---|---|
| 業務継続計画(BCP) | 運営基準(特養 第24条の2 など) | すべての介護サービス | 策定、職員への周知、研修・訓練(施設は年2回以上)、見直し |
| 非常災害対策計画 | 運営基準(特養 第26条 など) | すべての介護施設・事業所 | 非常災害の具体的計画、通報と連携の体制、職員への周知、避難・救出の訓練 |
| 避難確保計画 | 水防法 第15条の3、土砂災害防止法 第8条の2 | 浸水想定区域や土砂災害警戒区域にあり、市町村の地域防災計画に名前が載った施設 | 計画の作成と市町村長への報告、訓練と結果の報告 |
| 消防計画 | 消防法 第8条 | 防火管理者を置く建物 | 防火管理者による消防計画の作成、消火・通報・避難の訓練、設備の点検 |
表3 介護施設に求められる計画。各法令と厚生労働省の運営基準・解釈通知から作成
非常災害対策計画
非常災害対策計画は、運営基準が求める、災害時の通報・連携の体制と避難・救出の訓練を含む具体的な計画です。
特養の運営基準第26条は、「非常災害に関する具体的計画を立て、非常災害時の関係機関への通報及び連携体制を整備し、それらを定期的に従業者に周知するとともに、定期的に避難、救出その他必要な訓練を行わなければならない」と定めています。訓練には地域の住民が参加できるよう連携に努めること、と第2項にあります。解釈通知は、訓練に消防関係者の参加を促して具体的な指示を仰ぐよう求めています。
避難確保計画
浸水や土砂災害のおそれがある区域にあり、市町村の地域防災計画に名前が載った施設は、避難確保計画を作って訓練をする義務があります。
水防法第15条の3と土砂災害防止法第8条の2は、高齢者・障害者・乳幼児など配慮が必要な人が使う「要配慮者利用施設」に、計画の作成と市町村長への報告、訓練の実施と結果の報告を求めています。国土交通省によると、令和5年3月末時点で、計画が必要な要配慮者利用施設(学校・保育所なども含む)121,556施設のうち104,381施設(85.9%)が作成済みで、社会福祉施設に限ると99,008施設のうち85,335施設(85.9%)でした。
消防計画
消防法は、防火管理者を置く建物に、消防計画を作って消火・通報・避難の訓練を行うよう求めています。
消防法第8条は、建物の管理について権原を持つ人が防火管理者を定め、消防計画の作成、消火・通報・避難の訓練、消防用の設備の点検と整備などを行わせなければならない、としています。
4つはまとめて作ってよい
厚生労働省は、BCPと非常災害対策計画などを、対応する項目を設けていれば1つにまとめて作ってよいとしています。
令和6年に改正された解釈通知は、「感染症に係る業務継続計画、感染症の予防及びまん延の防止のための指針、災害に係る業務継続計画並びに非常災害に関する具体的計画については、それぞれに対応する項目を適切に設定している場合には、一体的に策定することとして差し支えない」としています。避難確保計画と消防計画は別の法律の書式と届け出があるため、まとめる場合も届け出は別に要ります。
水が止まったときの備え|飲料水と生活用水を分けて書く
厚労省のガイドラインは、断水時の対策を飲料水と生活用水に分け、それぞれ確保策と削減策を書くよう示しています。
能登半島地震で高齢者施設307か所が停電・断水
能登半島地震では高齢者施設307か所で停電・断水などが報告され、最大約13万戸が断水しました。
令和6年版厚生労働白書に記載された被害報告で、障害者施設48か所、医療施設26か所でも停電・断水などがありました。七尾市を調べた大阪公立大学の遠藤崇浩氏の報告では、市の断水は2万戸を超え、解消までに約3か月かかりました。その間、個人や事業所の井戸59か所が近所に開放されました。断水が何日続くかは原因と被害の大きさで変わり、過去の地震の例は断水がいつまで続くかの記事にまとめています。
飲料水は1人1日3リットルを3日分
ガイドラインは、被災後3日目まで自力で続けるため、水を1人1日3リットル、3日で9リットル備えるよう示しています。
3日目は、行政の支援が始まる目安です。農林水産省も、飲料用と調理用だけで1人1日3リットル、最低3日分で9リットルが必要で、食器を洗う水などは別に要るとしています。入所者だけでなく、泊まり込む職員と、受け入れる避難者の分も数に入れます。ペットボトルは消費期限までに買い替える管理が要り、居室にあらかじめ配っておく工夫もガイドラインに書かれています。
生活用水は水を使わない代わりの手段が基本
ガイドラインは、生活用水の多くはトイレ・食事・入浴に使われ、対策は水を使わない代わりの手段を用意することが基本だとしています。
| 区分 | 主な使い道 | 確保策の例 | 削減策の例 |
|---|---|---|---|
| 飲料水 | 飲む水、服薬、調理 | ペットボトルの備蓄、給水車からの給水 | 居室への事前配布で運ぶ手間を減らす |
| 生活用水 | トイレ、食事、入浴、清掃 | 浴槽の水をためる、給水車用のポリタンク、井戸水 | 入浴を清拭に切り替える、簡易トイレ、使い捨ての食器 |
表4 水道が止まったときの水の確保策と削減策。厚生労働省「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」から作成
浴槽は、損傷が無ければ生活用水のタンクとして使えます。トイレの水を流せなくなると、排せつのケアと衛生の負担が一気に増えるため、簡易トイレの数を入所者と職員の人数から決めておきます。生活用水の量について、1人あたりの公的な目安は見つかりませんでした。施設ごとに、平常時の水道の使用量から見積もります。見積もり方はBCPの策定手順の記事で解説しています。
給水車と受水槽
受水槽がある施設は、給水車から受水槽へ入れてもらう手順と、容器で受け取る手順の両方をBCPに書いておきます。
受水槽がある施設は、給水車から受水槽へ直接入れてもらえれば、ふだんの配管で各階に水を送れます。ただし、停電で給水ポンプが止まれば水は上がりません。給水車の容量や来る順番、受水槽へ入れてもらう条件は給水車の記事で解説しています。
厚生労働省の自然災害ガイドラインをもとに作成。浄水していない井戸水は飲まない
井戸水は浄水しないと飲めない
ガイドラインは井戸水の活用を有効としつつ、浄水していない井戸水は「間違っても飲用しないこと」としています。
井戸水は、トイレや清掃などの生活用水として断水中も使えますが、飲み水にするには水道と同じ水質基準に合っていることを確かめる必要があります。災害時協力井戸として登録された井戸にも、生活用水に限って使うものがあります。井戸の登録と飲用の線引きは防災井戸の記事で解説しています。浄水の設備を通して水質基準を満たした水であれば、断水中も飲料水として使えます。
給水設備の整備と補助|受水槽と地下水の設備が交付金の対象
高齢者施設の受水槽と地下水を使う給水設備の整備は、厚生労働省の地域介護・福祉空間整備等施設整備交付金の対象です。
国の交付金の給水設備整備事業
交付金の「高齢者施設等の非常用自家発電設備・給水設備整備事業」は、受水槽と地下水利用給水設備の整備を支援します。
厚生労働省の予算の資料は、この事業の目的を「災害による停電・断水時にも、施設機能を維持するための電力や水の確保を自力でできるよう」と書き、定員30人以上の広域型施設と29人以下の小規模施設の両方を対象にしています。予算は令和8年度当初予算12億円(前年度と同額)、令和7年度補正予算83億円(国土強靱化分62億円・大規模修繕等分21億円)で、どちらも非常用自家発電・給水設備・水害対策をまとめた事業の額です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 事業 | 地域介護・福祉空間整備等施設整備交付金の「高齢者施設等の非常用自家発電設備・給水設備整備事業・水害対策強化事業」 |
| 給水設備の対象 | 受水槽、地下水利用給水設備 |
| 対象の施設 | 広域型施設(定員30人以上)と小規模施設(定員29人以下) |
| 予算 | 令和8年度当初12億円、令和7年度補正83億円(自家発電・給水・水害対策の合計) |
| 窓口 | 施設のある都道府県・市町村(募集の時期と条件は自治体ごと) |
表5 介護施設の給水設備に使える国の交付金。厚生労働省「令和8年度予算の概要」の資料から作成。補助の率と上限額は自治体の募集要項で確かめてください
BCPが無いと補助を受けられない自治体がある
神戸市と静岡市は、BCPと非常災害対策計画を作っていない施設を、給水設備などの補助の原則対象外としています。
神戸市の令和8年度の募集は、義務になったBCPと非常災害対策計画が未策定の施設を原則として対象から外しています。静岡市の募集も同じ扱いで、給水設備の整備は福祉避難所に指定された施設などを優先して選ぶとしています。設備を足す計画がある施設ほど、BCPを先に作っておく必要があります。
施設で地下水を飲み水にする当社の仕組み
当社が扱う地下水飲料化システムは、深井戸の地下水を浄水し、水質基準を満たした水だけを受水槽に入れて施設に送る仕組みです。
当社のシステムのページのとおり、井戸の水質に合わせた設備で浄水し、水道の契約を残したまま地下水を足します。水道が止まっても、井戸のポンプと浄水の設備が動けば受水槽へ水を入れ続けられるため、BCPの水の項目に「自前の水源」として書けます。病院での使い方は病院・大学病院のページで、企業や施設のBCP対策の具体例はBCP対策の記事で紹介しています。
介護施設のBCPについてのよくある質問
介護施設のBCPの研修・訓練は減算の要件ではないものの義務で、訓練の手法は問われず、水は1人1日3リットルが目安です。
Q. BCPを作っていても、研修や訓練をしていないと減算されますか
A. 研修や訓練をしていないことだけでは減算されません。周知・研修・訓練・見直しの実施の有無は、業務継続計画未策定減算の算定要件ではないとされています。この回答のもとになったQ&A(Vol.1)の問164は令和6年5月のQ&A(Vol.6)問7で修正され、減算の条件が「未策定の場合、かつ、措置が講じられていない場合」から「未策定の場合や、措置が講じられていない場合」に改められました。研修と訓練は運営基準が「しなければならない」と定める義務です。
Q. 訓練は机上だけでもよいですか
A. 施設の解釈通知は、訓練の実施は「机上を含めその実施手法は問わない」としています。そのうえで、机上と実地を組み合わせて行うのが適切だとしています。
Q. BCPのひな形はどこで手に入りますか
A. 厚生労働省の「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修」のページにあります。自然災害のひな形は共通とサービス固有の2つ、感染症のひな形は入所系・通所系・訪問系の3つで、令和5年度に例示を入れた版も出ています。
Q. 小規模な事業所や訪問介護でもBCPは要りますか
A. 要ります。BCPの義務はすべての介護サービスにかかり、事業所の規模で外れることはありません。一方、未策定減算の対象から外れているサービスが2つあり、居宅療養管理指導と特定福祉用具販売です(令和6年度介護報酬改定の主な事項)。
Q. 水はどれだけ備蓄すればよいですか
A. 厚生労働省のガイドラインは、備蓄の目安を1人1日3リットル、3日で9リットルとしています。同じガイドラインは一般の成人が1日に必要とする飲料水を1.5〜3.0リットル程度としているため、3リットルはその上の側に当たります。入所者のほか、泊まり込む職員と受け入れる避難者の分も数えます。トイレや清掃の生活用水は別に要るため、浴槽の水や井戸水など、飲み水と別の確保策を計画に書きます。
参考情報
この記事は、次の国・自治体の資料をもとに作成しました(2026年10月28日に確認)。
- e-Gov法令検索「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」(第24条の2・第26条)
- e-Gov法令検索「介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準」(第26条の2)
- e-Gov法令検索「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」(第30条の2)
- 厚生労働省 解釈通知(老企第43号)の改正(令和3年)
- 厚生労働省 解釈通知の改正(令和6年)新旧対照表
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定の主な事項について」
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)」
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.6)」(問164の修正)
- 厚生労働省「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修」
- 厚生労働省「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」
- 厚生労働省 介護報酬改定検証・研究委員会 資料(BCPの策定状況)
- 厚生労働省「令和6年版厚生労働白書」特集
- 厚生労働省「令和8年度予算の概要」(地域介護・福祉空間整備等施設整備交付金)
- e-Gov法令検索「水防法」(第15条の3)
- e-Gov法令検索「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」(第8条の2)
- e-Gov法令検索「消防法」(第8条)
- 国土交通省 関東地方整備局 資料(要配慮者利用施設の避難確保計画の作成状況)
- 農林水産省「家庭備蓄ポータル」(水の備蓄)
- 神戸市 高齢者施設等の非常用自家発電設備・給水設備整備などの補助
- 静岡市 高齢者施設等の給水設備整備・水害対策強化の補助
- 水資源・環境学会 遠藤崇浩氏の寄稿(2024年10月3日、七尾市の井戸の開放)
