防災井戸とは、災害で水道が止まったときに、所有者が井戸水を近くの住民へ生活用水として出せるよう、自治体に登録した井戸です。
この記事では、登録と協定の違い、登録の条件、飲めるかどうかの線引き、停電で使えなくなる場合、補助金、企業や施設の井戸を地域に開くときに決めておくことを、国のガイドラインと自治体の公式資料をもとに整理します。断水がどのくらい続くかは断水の日数の記事で扱っています。
この記事でわかること
- 国の呼び名は「災害用井戸」:防災井戸・災害時協力井戸と、企業と協定を結んだ井戸をまとめた国の呼び名です。全国一律の法律の制度ではなく、自治体の要綱で決まります。
- 形は「登録」と「協定」の2つ:多くは名簿に載せて標識を付ける登録(指定)で、熊本市のように事業者と協定を結ぶ形もあります。
- 多くの自治体は飲用を認めていない:横浜市・大阪市・神戸市などは生活用水に限ります。国は、水質などの条件がそろえば飲用も差し支えないとしています。
- 電動ポンプは停電すると汲めない:発電機か手押しポンプの併設が要ります。
- 補助金はポンプと修繕が中心:横浜市は修繕の1/2で上限10万円、品川区は手動式への切替や代替電源で上限30万円です。
防災井戸とは|災害時に生活用水を地域へ出す井戸
防災井戸は、上水道が復旧するまでの間、井戸水を応急の生活用水として地域の住民に提供する井戸です。
地震で水道管が壊れると、トイレや洗濯、掃除に使う水が足りなくなります。その生活用水を、近くの個人や事業所の井戸から分けてもらう仕組みが、防災井戸や災害時協力井戸の制度です。
国の呼び名は「災害用井戸」で、名前は自治体ごとに違う
国の災害時地下水利用ガイドラインは、防災井戸・災害時協力井戸・協力井戸などをまとめて「災害用井戸」と呼んでいます。
このガイドラインは内閣官房水循環政策本部事務局と国土交通省が令和7年3月17日に公表し、令和7年12月に改訂したものです。災害用井戸には「「防災井戸」、「災害時協力井戸」、「震災対策用井戸」、「井戸水提供の家」等の特定名称が付いているものが多いが、民間企業と井戸水提供の協定を締結することなどにより、災害時の利用を予定している井戸も含まれる」と書いています。
法律ではなく自治体の要綱で決まる
防災井戸には全国一律の法律の制度は無く、登録の条件や手続きは各自治体の要綱で決まります。
たとえば鳥取県は「鳥取県災害時協力井戸登録制度実施要綱」で、協力井戸を「災害時において無償で生活用水を提供できる井戸として、本要綱に基づき登録された井戸」と定めています。国は、令和7年7月の防災基本計画で「市町村は、地域住民や企業が所有する井戸や湧水を災害用井戸・湧水として活用するための登録制度や、…代替水源の確保に努めるものとする」と書き、市町村に取り組みを求めています。
取組のある市区町村は約32%
内閣官房の2024年の調査では、回答した1,490市区町村のうち、災害用井戸の取組があるのは約32%でした。
内訳は、公共と民間の両方の井戸を使う自治体が154(10.3%)、公共の井戸だけが124(8.3%)、民間の井戸だけが195(13.1%)で、1,017(68.3%)には災害用井戸がありませんでした。
能登半島地震で井戸の役割が見直された
令和6年の能登半島地震では断水が長く続き、住民が自分から開いた井戸が生活用水として使われました。
政府のまとめでは、この地震で約13.6万戸が断水し、復旧が難しい地域などを除いて解消したのは令和6年5月末でした。国のガイドラインは、被災地の一部で「住民の声かけ等により、井戸水や湧水が自発的に開放され、生活用水に活用される」一方、「井戸があっても普段から利用されていない地域では、自衛隊や行政の給水に頼る」など、地域で差が出たと書いています。断水への備え全体はBCP対策の記事にまとめています。
登録と協定|災害時協力井戸と災害協定の違い
井戸を災害時に地域へ開く形には、自治体の名簿に載せる「登録(指定)」と、自治体と書面で約束する「協定」の2つがあります。
千葉市や町田市のように、登録したうえで協定も結ぶ自治体もあります。違いを表にまとめます。
| 項目 | 登録(指定) | 協定(災害協定・防災協定) |
|---|---|---|
| 何をするか | 自治体の名簿に載せ、標識やプレートを付ける | 自治体と協定書を取り交わし、役割を書面で決める |
| 主な相手 | 個人・事業所の井戸 | 事業者や団体の井戸が多い |
| 提供の約束 | 善意の提供で、義務を課さない自治体が多い | 用途・費用・責任の分け方を協定書に書く |
| 例 | 横浜市(指定1,740施設・令和8年4月18日時点)・仙台市(登録262件・令和8年4月1日現在)・札幌市(登録350施設・令和8年3月現在)・大阪市(登録3年) | 熊本市(事業者99社100か所・令和8年7月10日現在)・千葉市の専用水道協定・文京区の防災協定井戸 |
国の災害時地下水利用ガイドライン、各自治体の公式ページ・要綱・協定書をもとに作成
国の災害時地下水利用ガイドラインと、横浜市・大阪市・千葉市・町田市・熊本市の公式資料をもとに作成した模式図。手順の名前や順番は自治体ごとに違う
登録は名簿に載せて標識を付ける
登録(指定)は、自治体が井戸を確かめて名簿に載せ、所有者に標識やプレートを渡す形です。
大阪市は、条件を満たす井戸を「本市が管理する名簿に登載するとともに、登録者に登録通知書及び標識を交付」し、登録期間を3年としています。横浜市は区の職員が井戸を調べて指定し、「災害用井戸協力の家」のプレートを道路から見える場所に付けてもらいます。
協定は自治体と書面で役割を決める
協定は、井戸の所有者と自治体が協定書を取り交わし、災害時の提供の中身を書面で決める形です。
国のガイドラインは登録の流れの中で「井戸所有企業との協定締結を積極的に進めることも重要である」と書き、協定の協議から協定書の取り交わしまでを図で示しています。千葉市は防災井戸に指定した井戸の所有者と市が協定を結び、町田市も登録した井戸の所有者と「災害時における井戸水の給水協力に関する協定書」を結んでいます。
災害対策基本法は民間との協定を努力義務にしている
災害対策基本法49条の3は、自治体などの災害予防責任者に、民間の協力を得るための協定の締結などを努力義務にしています。
条文は、「物資供給事業者等」(物資や役務を供給する事業者や、災害対策の活動をする民間の団体)の協力が要る事態に備え、「協定の締結その他…必要な措置を講ずるよう努めなければならない」としています。自治体同士の災害応援協定は49条の2が同じく努力義務として定めています。
熊本市は事業者とだけ協定を結ぶ
熊本市は個人の井戸とは協定を結ばず、民間事業者の井戸とだけ協定を結んで、災害時の水を地域に出しています。
熊本市の公式ページによると、協定を結んでいるのは「市内99社(100箇所)の民間事業者」(令和8年7月10日現在)で、「個人所有の井戸についての協定は行っておりません」と書いています。
品川区は協定を結んだ所有者を登録の対象外にしている
品川区は、区と災害時協力協定を結んでいる所有者を、災害対策用井戸の登録の対象から外しています。
品川区の災害対策用井戸の要綱は、登録の条件の1つに「登録を受けようとする井戸の所有者が、区と災害時協力協定を締結していないこと」を挙げています。自治体によって登録と協定の関係が違うので、両方を考える事業者は、先に窓口でどちらの形になるかを確かめます。
登録の条件|無償の提供、ポンプ、水質、表示
登録の条件は自治体で違い、国のガイドラインは無償の提供と所在地などの情報提供の2つを基本に挙げています。
その上に、ポンプ、水質、井戸の場所などの条件を自治体が足しています。主な自治体の条件を表にまとめます。
| 自治体(制度名) | 対象 | ポンプ・設備 | 水質の確認 | 用途 |
|---|---|---|---|---|
| 横浜市(災害応急用井戸) | 市内の井戸を区の職員が調べて指定 | 立上げはおおむね15cm以上 | pH・色度・濁度・臭気の目安 | 口に入る用途は不可 |
| 名古屋市(災害応急用協力井戸) | 家庭用と事業場用 | 揚水設備または井戸設備 | 市の職員が現場を確認 | 飲み水を除く生活用水 |
| 大阪市(災害時協力井戸) | 市内の井戸・登録3年 | 電動または手押し、つるべ | 濁りや臭いがないこと | 飲料用ではない |
| 神戸市(災害時市民開放井戸) | 市民・事業者・工場 | 記載なし | 職員が簡単な水質検査 | 飲用は水道水 |
| 札幌市(災害応急用協力井戸) | 個人・民間事業者 | 記載なし | 市の水質検査なし | 生活用水 |
| 品川区(災害対策用井戸) | 区と協定を結んでいない所有者 | 手動式・電動式・併用式 | 登録時と年1回、費用は区 | 生活用水 |
| 豊島区(防災井戸) | 屋外の井戸 | 電力を用いない揚水装置 | 毎年度1回、費用は区 | 初期消火用水と生活用水 |
| 町田市(災害時協力井戸) | 個人・事業所、協定書を結ぶ | 記載なし | 2年に1回程度、基本11項目 | 生活用水 |
| 千葉市(防災井戸協力の家) | 指定後に市と協定 | 記載なし | 記載なし | 生活用水(令和7年4月から) |
各自治体の公式ページ・要綱・所有者向けの冊子をもとに作成(2026年10月16日に確認)。「記載なし」は確認したページに書かれていなかったもの。最新の条件は各自治体に確かめる
国が挙げる基本は無償の提供と情報の公表の2つ
国のガイドラインは、登録の基本の要件を「原則無償で提供できること」と「井戸の所在地などの情報提供」の2つとしています。
広島市は登録の案内で、市が井戸水の使用料や電気料金を払うことはできないと書いています。
ポンプは電動でよい所と手押しが要る所がある
ポンプの条件は自治体で分かれ、大阪市は電動か手押しのどちらでもよく、豊島区は電力を使わない揚水装置を求めています。
大阪市は「ポンプ(電動又は手押し)又は つるべ等がついていること」を要件にしています。豊島区の防災井戸の要綱は「手押しポンプ等の電力を用いない揚水装置を備えていること」と「屋外にあること」を指定の要件に入れています。
水質は生活用水として使えるかを見る
登録のときの水質の確認は、飲めるかではなく、洗濯やトイレなどの生活用水として使えるかを見るものです。
横浜市は指定の目安を、pHが5.8〜8.6、色度5度以下、濁度2度以下、臭気に異常がないこととしています。神戸市は登録のときに職員が簡単な水質検査を行い、札幌市は「札幌市による水質検査の実施等はありません」と書いています。
標識を付け、場所が公表される
登録すると、多くの自治体で井戸に標識やプレートを付け、井戸の場所が地図や一覧で公表されます。
千葉市は指定した井戸に「防災井戸協力の家」のプレートを付けてもらい、井戸の所在地を市民に公表しています。町田市は目印の標示柱(高さ1.5メートル)を井戸の周りか敷地内に立てます。千葉市は、午前0時から午前5時までは防災井戸を利用できないと決めています。大阪市は登録期間を3年とし、横浜市は指定した井戸に「週1回以上井戸水を汲んでください」と求めています。
防災井戸の水は飲めるか|多くは生活用水に限る
防災井戸の水は、多くの自治体で飲み水ではなく、トイレや洗濯などの生活用水に限って提供されます。
井戸水は見た目がきれいでも汚れていることがあり、地震のあとは水質が変わるおそれもあります。生活用水と飲用で何が違うかを表にまとめます。
| 項目 | 生活用水として出す | 飲用として出す |
|---|---|---|
| 主な使い道 | トイレ、洗濯、掃除、風呂、散水 | 飲む、調理、歯みがきなど口に入る用途 |
| 水質の確かめ方 | pH・色度・濁度・臭気などの目安(横浜市の例) | 水道法の水質基準51項目や、飲用井戸等衛生対策要領の検査 |
| 自治体の例 | 横浜市・名古屋市・大阪市・京都市・神戸市・千葉市など | 熊本市(一定の基準を満たした事業者の井戸)・千葉市の専用水道協定 |
| 注意 | 利用者に飲料用ではないと伝える(大阪市) | 地震のあとは水質が変わるおそれがある |
国の災害時地下水利用ガイドライン、飲用井戸等衛生対策要領、各自治体の公式資料をもとに作成
多くの自治体は飲用を認めていない
横浜市・神戸市・大阪市など多くの自治体は、防災井戸の水を飲まないよう、公式ページではっきり書いています。
横浜市は「飲用、炊事用、食材・食器洗浄用、入浴等、井戸水が口に入る可能性がある用途には使用しないでください」と書いています。神戸市は「見た目はきれいに見えても、病原大腸菌等の微生物等によって汚染されている場合があり」として、飲用には水道水を使うよう呼びかけています。大阪市は登録した所有者に「飲料用として提供しているものではない旨を利用者にお伝え願います」と求めています。
千葉市は令和7年4月に飲用水から生活用水へ変えた
千葉市は、それまで飲用水としていた防災井戸の用途を、令和7年4月1日から生活用水へ変えました。
千葉市の公式ページは「令和7年4月1日以降、災害時における防災井戸の井戸水使用用途を「飲用水」から「生活用水」へ変更します」と書き、「提供される水は、飲み水ではなく生活用水として使用してください」と呼びかけています。
国は条件がそろえば飲用も差し支えないとする
国のガイドラインは生活用水を基本にしながら、水質などの条件がそろう場合は飲用に使うことも差し支えないとしています。
原文は「基本的には生活用水向けの利用を目的とするが、必要に応じ、水質等の条件が確保される場合には、飲用向けの利用も差し支えないものとする」です。そのうえで、口に入る使い方をするなら、自治体の要綱や国の「飲用井戸等衛生対策要領」を確かめ、「水道法に基づく水質基準51項目」などの水質分析を行うよう勧めています。要領は、病院・店舗・工場などの事業所に飲用水を出す業務用飲用井戸に、毎年1回以上の定期の水質検査を求めています。検査の項目は水質検査の記事で扱っています。
飲用で出す例は熊本市と千葉市の協定
災害時の井戸水を飲用として出している例には、熊本市の事業者との協定と、千葉市が小売企業と結んだ専用水道の協定があります。
熊本市は飲料用を「一定の基準を満たしたもの」に限っています。千葉市は平成26年12月16日、大型の商業施設を持つ小売企業と「災害時における専用水道の使用に関する協定書」を結び、施設の深さ100m前後の井戸の地下水を、緊急時の飲用水・生活用水として市に供給する取り決めです。専用水道の区分は水道法の記事で説明しています。
飲んでいた井戸水も、地震のあとは確かめる
ふだん飲んでいる井戸水でも、地震のあとは水質が変わっていることがあるため、飲む前に確かめる必要があります。
国のガイドラインは能登半島地震の例として、「地震発災により井戸水の水質が変化している可能性もあったため、それまで飲用していた井戸水であっても飲用としない例があった」と書いています。そのうえで、その井戸水は不足していた生活用水として近隣の住民に使われ、「非常に有用であった」とも書いています。飲用で出すかどうかの扱いは、管轄の保健所や自治体に確かめます。
停電と故障で使えない井戸|電動ポンプと発電機
井戸があっても、電動ポンプの井戸は停電すると水を汲めず、ふだん使っていない井戸は水が出ないことがあります。
防災井戸を本当に使えるものにするには、電源と日ごろの使い方を先に考えておく必要があります。
電動ポンプは停電すると汲めない
国のガイドラインは、電動ポンプの井戸は停電のときに発電機を使わないと地下水を汲み上げられないと書いています。
原文は「電動ポンプを動力としている井戸では、停電時に発電機を使用しないと地下水を汲み上げることができない」です。大阪府も井戸の利用の注意で、停電などで井戸が使えない場合があると書いています。大阪市や品川区のように電動ポンプでも登録できる自治体があるので、登録しただけで停電中に使えるとは限りません。
手押しポンプの併設と代替電源
停電への備えには、電動ポンプに手押しポンプを併せて付ける方法と、発電機などの代わりの電源を用意する方法があります。
国のガイドラインは「最近では停電時に備えて、手押しポンプを併設する箇所も増えている」と書いています。品川区は、登録した井戸の手動式ポンプの併設、手動式への切替、代替電源の確保の費用を、上限30万円で補助しています。施設の井戸で揚水量が多い場合は、手押しポンプでは足りないため、非常用発電機の回路に井戸のポンプをつなぐかを設備の担当者と決めます。
普段使っていない井戸は水が悪くなる
ふだん使っていない井戸は目詰まりなどで水が停滞し、水質が悪くなるため、災害時にすぐ使えないことがあります。
国のガイドラインは「井戸水も普段から利用していないと、目詰まりなどを生じて井戸内に水が停滞し、水質が悪化する場合がある」と書いています。横浜市が指定した井戸に週1回以上水を汲むよう求めているのも、このためです。井戸の掘り方や構造はさく井工事の記事で扱っています。
能登で使えたのは停電を免れた地区
国土交通省の資料によると、能登半島地震の穴水町で井戸水を避難所のトイレに使えたのは、停電を免れた地区でした。
同じ資料には、現地の声として、井戸水は「飲料用としては使用できなかった」という記録もあります。停電と水質の2つは、防災井戸が使えるかどうかを分ける条件です。
防災井戸の補助金|ポンプ・修繕・掘削
防災井戸の補助金は自治体ごとにあり、登録・指定した井戸のポンプの設置や修繕にかかる費用の一部を出すものが中心です。
井戸の所有者が使える補助は、市区町村が独自に設けています。主な例を表にまとめます。
| 自治体 | 対象 | 補助の中身 | 条件・注意 |
|---|---|---|---|
| 横浜市 | 指定した災害応急用井戸の修繕 | 経費の1/2、1井戸の総額上限10万円(ポンプ・立上げは各上限7.5万円) | 令和8年度の申請期間は6月1日〜12月25日 |
| 世田谷区 | 指定した震災対策用井戸のポンプ設置・修理 | 上限10万円 | 指定されていない井戸は対象外 |
| 品川区 | 登録した災害対策用井戸 | 手動式の併設・切替、代替電源は上限30万円、経年劣化の維持修繕は上限10万円 | 電動ポンプの新設、掘削は対象外 |
| 文京区 | 防災協定井戸のポンプ設置・交換 | 実支出額で、1回の工事につき上限30万円 | 5年に1回 |
| 藤沢市 | 指定した防災井戸の手動式(併用型を含む)ポンプ | 経費の1/2以内、上限5万円 | 事前申請。受給から10年は再び使えない |
| 静岡市 | 災害時協力井戸 | ポンプの購入は1/2・上限5万円、掘削は1/2・上限50万円 | 掘削は自主防災組織が対象 |
各自治体の公式ページ・要綱・案内をもとに作成(2026年10月16日に確認)。予算に達すると受付を終える自治体がある。申請の前に各自治体の最新の条件を確かめる
補助は指定・登録した井戸が条件のことが多い
防災井戸の補助金の多くは、自治体に登録・指定された井戸だけを対象にしています。
世田谷区は「指定されていない井戸は、補助金の交付対象とはなりません」と書き、横浜市は対象者を「横浜市から指定を受けた災害応急用井戸の設置者」としています。補助を使いたい場合は、先に登録・指定の手続きを済ませます。
多いのはポンプの設置と修繕
今回確かめた6つの自治体の補助は、どれもポンプの設置・交換か、井戸の修繕を対象にしています。
藤沢市は手動式ポンプか、手動式と電動式の併用型ポンプの設置・交換、手動式ポンプの修繕を対象にしています。品川区は手動式への切替や代替電源を上限30万円とし、電動ポンプの新設と掘削は対象から外しています。6つのうち新しく掘る費用を補助するのは静岡市だけで、自主防災組織が掘る井戸に限っています。
協定を前提にした補助もある
文京区のように、区と防災協定を結んだ井戸を対象に、ポンプの設置や交換の費用を補助する自治体もあります。
文京区の防災協定井戸の助成は、新たにポンプを設置する工事と、経年劣化などでポンプ本体を交換する工事が対象で、「一回の工事につき30万円を上限」とし、「5年に1回の助成」としています。区の令和5年度の資料は、この助成の目的を「民間所有の井戸について、防災協定締結を促進するため」と書いています。
企業が使えるかは要綱で確かめる
今回確かめた補助の案内に事業者が対象かを明記したものは無く、企業や施設が使えるかは要綱で確かめます。
横浜市は対象者を「横浜市から指定を受けた災害応急用井戸の設置者」と書き、事業者かどうかには触れていません。施設で使いたい場合は、申請の前に窓口で確かめます。
企業・施設の井戸を地域に開く|協定で決めておくこと
企業や施設の井戸を災害時に地域へ開くなら、自治体と協定を結び、用途・場所・費用・止める条件を平時のうちに決めておきます。
熊本市が事業者の井戸とだけ協定を結んでいるように、施設の井戸は断水した地域で頼られる水源になります。一方で、敷地に人を入れるなど施設側の事情もあります。協定で決めておくことを表にまとめます。
| 決めておくこと | 中身 | 公的な資料の例 |
|---|---|---|
| 用途 | 生活用水だけか、飲用も出すか | 熊本市は飲料用と生活用水の2つ。飲料用は一定の基準を満たした井戸 |
| 場所と時間 | どこで渡すか、何時から何時までか | 千葉市は午前0時〜5時は利用できない |
| 費用 | 水の代金、電気代、下水道料金を誰が持つか | 千葉市の専用水道協定は供給の費用を市が負担。熊本市は提供分の下水道使用料を減免 |
| 責任 | 住民への配り方と、事故のときの責任 | 千葉市の協定は「第三者への供給はすべて甲(市)の責任」 |
| 止める条件 | 施設の事業を再開するときなど | 熊本市は事業の再開で提供できなくなることがあると案内 |
熊本市・千葉市の公式ページと協定書、国の災害時地下水利用ガイドラインをもとに作成
国は企業との協定を進めるよう求めている
国の災害時地下水利用ガイドラインは、自治体に、井戸を持つ企業との協定を積極的に進めるよう求めています。
ガイドラインは、対象を「主に民間所有(個人及び企業)の井戸」とし、登録の流れの図に「民間企業への協定締結要請」と「協定書の取り交わし」を入れています。防災基本計画も「地域住民や企業が所有する井戸」の登録制度を挙げています。
施設の井戸は断水した地域の給水拠点になる
断水した地域では水を出せる場所が限られるため、敷地に井戸を持つ施設は、地域の数少ない給水拠点になります。
内閣府の調査では、全国の指定避難所82,820か所のうち、入浴や洗濯などの生活用水を確保しているのは18,356か所(22.2%)でした。国のガイドラインが引く熊本市の計画では、1人1日の水の目標は地震から3日間が3リットル、21日目までが100リットルで、日が経つほど生活用水が要ります。
協定で決めておく5つのこと
協定で決めておくのは、用途、渡す場所と時間、費用、責任、提供を止める条件の5つです。
飲用まで出すなら、地震のあとに飲めるかを誰が判断するかも決めます。渡す場所は、建物に住民を入れずに済む屋外の給水栓にすると、施設の運営と分けやすくなります。
費用と責任の分け方の例
千葉市が小売企業と結んだ協定では、地下水を市民に配るのは市の責任とし、供給にかかる費用も市が持つと決めています。
協定書は「地下水の市民等の第三者への供給はすべて甲の責任で行い」「地下水の供給に要する費用は甲が負担する」と書いています(甲は千葉市)。熊本市は、協定に基づいて被災者に提供した分を、下水道使用料の減免の対象にしています。
住民の多くは頼まれる前に井戸を開いた
能登半島地震の七尾市の調査では、井戸を開いた人の85%が地震から3日以内に、82%が頼まれる前に井戸を開いていました。
調査は内閣官房の研究会の資料にあり、井戸を開いた43件に調査票を配り、28件(65%)が回答しています。回答者の68%が「トラブルなし」と答え、14.3%は飲用を想定して提供していました。事前に決めておくと、その動きを地域の給水の計画に組み込めます。
当社が扱う地下水の設備と、地域への給水
当社が扱う地下水飲料化システムは、施設の敷地の井戸の水を浄水して使う設備で、断水しても動き続け、地域へ水を出す形にもできます。
水道水の基準まで浄水した地下水を施設の水源にしていれば、災害時の水の使い道が広がります。
当社が扱う地下水飲料化システムの例を単純化した模式図。屋外の給水栓と発電機への接続は、設けることができる形の1つで、施設ごとに決める
浄水した地下水を施設の給水に使い、断水しても動く
当社の設備は、地下水を水道水の基準まで浄水して受水槽へ送るため、水道が断水しても施設の給水を続けられます。
当社が扱うシステムでは、水道法51項目の基準を満たした水が受水槽へ入り、施設の給水系統へ送られます。水道の契約はそのまま残し、浄水設備の点検時や異常時は水道がバックアップします。水道管が断水しても地下水の側は動き続けるため、施設の水源が2本になります。仕組みは地下水飲料化の説明とシステムの説明にまとめています。
屋外の給水栓で地域へ水を出せる
当社の設備では屋外に給水栓を設けることができ、施設の建物に入らなくても、周辺の住民が水を汲めます。
当社の設備では、災害時に周辺の住民へ給水するための地域防災協定を、自治体と結んだ実績があります。平時は施設の給水に使い、地域への開放はしません。協定を結んでおくと、断水したときに屋外の給水栓を開く判断と手順を、平時のうちに決めておけます。詳しくは地域への給水のページにまとめています。
停電中は非常用発電機で給水を続ける
当社の設備では、浄水設備を非常用発電機につないでおけば、停電中も給水を続けられます。
浄水設備も電気で動くため、非常用発電機の回路に井戸のポンプと浄水設備を入れておくかを、導入のときに決めます。断水が長引いたときの施設の備えは災害時の水源確保のページにまとめています。
防災井戸についてのよくある質問
防災井戸の質問のうち、自宅の井戸の登録、提供の義務、申し込み方、場所の調べ方、新しく掘る場合の5つに答えます。
Q. 自宅の井戸も防災井戸に登録できますか
A. 多くの自治体は個人の井戸も登録の対象にしています。京都市は市民と事業者、札幌市は個人と民間事業者の井戸を登録しています。ただし熊本市は、個人の井戸とは協定を結んでいません。
Q. 登録したら、災害時に必ず井戸を開けなければいけませんか
A. 大阪府は井戸水の提供を善意によるものとし、提供者に義務はないとしています。停電などで井戸が使えないときは、登録の標識を外すよう求めています。協定を結んだ場合は、協定書に書いた範囲で提供します。
Q. 防災井戸の登録は、どこにどう申し込みますか
A. 申込先は自治体ごとに違います。名古屋市の事業者の井戸は、申込書と承諾書を区の公害対策課へ出し、市の職員が現場を確かめてから指定書が送られます。静岡市は各区役所の地域総務課が窓口です。市区町村の制度のページで確かめてください。
Q. 近くの防災井戸の場所はどこで調べられますか
A. 自治体の公式ページで、井戸の一覧や地図を公開している所があります。京都市は防災井戸マップで紹介し、名古屋市は指定した事業場の井戸を地震ハザードマップに載せ、千葉市は防災井戸の住所の一覧を公表しています。
Q. 新しく井戸を掘って登録できますか
A. 静岡市は新設を予定している井戸も登録の対象にし、自主防災組織が掘る井戸には掘削費の補助があります。国のガイドラインは令和7年12月の改訂で、自治体が新しく井戸を掘る場合の検討と整備の記述を足しました。
参考情報
この記事は、国の災害時地下水利用ガイドラインと防災基本計画、災害対策基本法、各自治体の公式ページ・要綱・協定書をもとに書いています。
- 災害時地下水利用ガイドライン(令和7年3月、令和7年12月改訂)|内閣官房水循環政策本部事務局・国土交通省
- 災害に備えた生活用水の確保について(防災基本計画・指定避難所の調査)|内閣府防災
- 災害対策基本法|e-Gov法令検索
- 飲用井戸等衛生対策要領|環境省
- 令和6年能登半島地震 1年間の取組(断水の状況)|首相官邸
- 第2回地下水マネジメント研究会 資料(七尾市の井戸提供者の調査)|内閣官房
- 災害応急用井戸|横浜市
- 災害応急用井戸の修繕補助金|横浜市
- 災害応急用井戸の募集(事業者)|名古屋市
- 災害時協力井戸 所有者向けパンフレット|大阪市
- 災害時協力井戸の利用方法|大阪府
- 災害時協力井戸について|京都市
- 災害時市民開放井戸|神戸市
- 災害応急用井戸|仙台市
- 災害応急用協力井戸|札幌市
- 防災井戸協力の家|千葉市
- 災害時における専用水道の使用に関する協定書|千葉市
- 災害対策用井戸登録要綱|品川区
- 震災対策用井戸の補助|世田谷区
- 防災井戸に関する要綱|豊島区
- 防災協定井戸維持管理助成事業|文京区
- 災害時協力井戸|町田市
- 防災井戸に関する補助金制度|藤沢市
- 災害時協力井戸|静岡市
- 災害用(防災)井戸の協定|熊本市
- 災害用井戸の登録|広島市
- 鳥取県災害時協力井戸登録制度実施要綱|鳥取県
